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86.魔王領――47

 少し時間が空いた。

 普段なら皆の訓練でも眺めに行くところだけど……万が一を考えればノエルに皆の具体的な戦力を見せるのは得策じゃないか。

 幸いというべきかは分からないけど、魔力に敏感なノエルは皆が訓練している魔力自体は感じ取っているらしく、訓練場の方を見てどこか落ち着きのない様子だ。

 この分ならわざわざ魔王とその眷属の強さをアピールみたいな事をする必要はないだろう。


「ノエルって本は読む?」

「まぁ、人並みには」

「それなら良かった」


 ノエルを連れて向かった先は図書室。

 普段はトゥリナやカミラを見かける事が多いけれど、今は無人で静まり返っている。


「……これだけの本、どうやって集めたの?」

「もちろん普通に買ったよ。お金は森の獣を狩って用意した」

「へぇ、そうなんだ」

「だから割とどこにでもあるような本しかないけどさ。その分種類は多めに揃えてあるよ」

「どこにでもあるような本……」


 そう呟くと、ノエルは棚の間を歩きながら時々適当な本を抜き出してぱらぱらと軽く目を通していく。

 確か前に会った時、ディアフィスの歴史については本を読んだから知ってるみたいな事を言っていた気がするけど……王都での立場とかを考えると、市井にあるような本に触れる機会はあまり無かったのかもしれない。

 絵本や漫画から小説まで、どのジャンルのものも興味深そうに見ている。


「っ……」

「あ、もうこんな時間か」


 不意に、今日の料理当番であるヒルダの魔力を感じた。

 僕にもよく分からない論文みたいなものをめくっていたノエルがパッと顔を上げる。


「これはただのご飯が出来た合図だから。ほら、食堂に行くよ」

「え、ボクも?」

「席には余裕があるから大丈夫」

「そうじゃなくて……隙を突いてボクが暴れるとか」

「皆揃ってるなら問題なく対応できるね」

「敵側の勇者が同じ場所に居たら空気が悪くなるとか」

「人によっては少し警戒するかもしれないけど、普通に食事する分には誰も気にしないよ。別に勇者とかノエルの事を嫌ってる人だっていないし」

「えっと…………じゃあ、いい……のかな?」


 困惑気味に首を傾げるノエルを連れて食堂へ。

 今日のメニューはミートソーススパゲッティっぽいもの。

 特にこれと言って変わったこともなく、いつも通りに美味しく料理を平らげる。


「美味しかった?」

「……うん」

「それは良かった。まぁ、魔王の魔力を吸って育った食材を使ってるからね」

「そんな事もしてるんだ」

「特に手間がかかる作業でもないしね」


 カミラのところに料理を届けに行ったレヴィアによればテオも目を覚ましたらしいし、改めて様子を見に行くかな……そう思って席を立つと、近づいてくる人影があった。


「ユウキさん、今ちょっといいですかー?」

「ラルスか。どうかした?」


 短い話でもないのか腰を下ろしたラルスに倣い、僕も再び椅子に座り直す。

 思えば、こういうプライベートな時間にラルスから話しかけてくる事ってあまり無かった気がするな。


「ちょっと今更な話ですけどー……この屋敷って、ユウキさんが作ったんですよね?」

「そうだね」

「見た感じだと、既存の家の数々を組み合わせて氷で補強したってとこでしょうか」

「まぁ、まさにラルスの見立て通りかな」

「正直あそこの階段とか、予備の家具を置いてある部屋の辺りとか、何かと不便じゃありませんか? いや、オレが不満感じてるとかいうわけじゃないんですけどー」


 ふむ……どうだろう。

 割とみんな身体スペックでカバーしてる節があるからな……。

 ただ、確かに掃除の時とか行き来するのが面倒な部屋なんかは心当たりがある。


「そこで、よろしかったらオレが良い感じの屋敷を建てちゃおっかなー、と」

「…………」


 ノエルが居る手前口に出しては言わないけど、幻の家か……という思いを視線に乗せて返事の代わりにする。

 それに確かラルスの能力の仕様だと、眠らない魔王勢はともかく眷属の皆は眠った瞬間に能力の対象外になる気がする。

 ……あれ? 幻の家の中で実体あるベッドに入って寝た場合はどうなるんだろう?

 ちょっと思考が脱線しかけていると、ラルスは苦笑いと共にヒラヒラと手を振る。


「あー、誤解させちゃったみたいですけど能力は使わないで普通に建てますよ? これでも大工仕事には一日の長があるんで」

「あ、そうなんだ。……それじゃ頼んでみようかな。ただ、夜に作業するときは寝てる皆の邪魔にならないように」

「分かりました。ありがとうございまーす」


 少し考えて特に懸念される問題も無かった事だし許可を出すと、ラルスは嬉しそうに頷いて自分の部屋に戻って行く。

 そういう感じの作業が好き、なのかな?

 なんだかちょっと意外な一面を見た気がした。


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