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83.魔王領――44

「まったく……拳の勇者はディアフィス聖国がある限り向こう側だろうって言ってたのはどの口よ?」

「ご、ごめん……」


 どうにか全員無事に結界へ帰還した後。

 僕は会議室の床に正座してティスのお説教を受けていた。

 部屋にいるのはいつもの面子。

 ティスの隣にはランカ(ランカリデス)、着席しているラミスとリエナ(ネシェーリエン)、今回僕の眷属からはレンとレミナ、そして少し離れたところにアベル。

 目を離すわけにはいかないって事で、部屋の隅には氷鎖でグルグル巻きのノエル(拳の勇者)もいる。


 ちなみにある意味今回の本命だったコーネリアたちに関してはゴドウィンたちに相手を任せつつ別室で待ってもらっている。

 ロマクス家で保護した姉弟の奴隷もカミラが治療してくれているはずだ。


「あー、でも一応こっちに来るまでは景色も隠して魔力だって感知阻害かけてたし」

「状況を鑑みれば当然の措置ですわね」

「まぁ、私だってユウキが暴走したくらいで何か言える立場でもないけどさ」

「うぐ……」


 苦し紛れの言葉はランカにバッサリ切り捨てられる。

 ティスはフォローっぽい事言ってくれるけど、それは逆も言えるわけで。

 重要な局面に差し掛かってるっていうのに、僕までこの調子じゃあな……。


「それに、戦力としての勇者を一人抑える事に成功したって言えば選択としてはアリじゃない?」

「確かにティスの言うような捉え方も出来ますが……」

「まぁ事情は聞いてるし、今すぐ殺せなんて言う気もないけど。ユウキはその子をどうするつもり?」


 どうするつもり、か……。

 正直割と衝動的に連れてきた面もあって、その後の事を具体的に決めてはいない。

 ただ少し考えて抑えるべき、もしくは外すべきでないポイントを見極めればある程度の方針は立つか。


「とりあえず、事が収まるまでは結界の中かな」

「それはそうでしょう。問題は彼女が大人しく捕まっていてくれるかどうか、ですけど」

「多分難しいと思う。そこは僕がつく事にするよ。連れてきた責任もあるし」


 ……自分で言っててなんだけど、相手を衝動的に連れ去ってきて監禁するとか危険な気配しかしないな。

 い、いや、実際ノエルのディアフィスでの扱いは結構酷かったし間違った判断じゃない……はずだ。多分。


 思考の片隅で漠然と自戒しつつ、一応敵側の勇者(ノエル)に聞かれても問題ない範囲で互いに情報を交換していく。

 その内容は今回分かった相手の戦力についての簡単な説明やロマクス家で保護した姉弟、コーネリアの事等。

 詳細はまた後で詰める事にして、その場はひとまず解散となった。


 さて、と。

 ノエルを連れて屋敷を出る。ついてきたリエナも一緒に少し歩き、よく皆が模擬戦に使っている場所の一つ……屋敷から適度に離れた辺りで足を止める。

 そう変な時間に暴れる人もいないだろうけど、騒音とかも考えて場所を選ぶ。


「この辺でいいかな?」

「……よく分からない」

「そっか。ま、最悪ダメなら作り直せばいいか――『氷創(クリエイト)』」


 詠唱と共に氷で生み出すのは、さっき出てきた屋敷の再現。

 魔法も使い慣れてきたおかげか割とイメージ通りに作れるけど、肝心のイメージが微妙に追いつかないせいで規模は縮小版じみた感じになる。

 目的を考えればそう大き過ぎても不便だしちょうどいいか。

 ……白く曇らせたり透き通らせたり青くしたり、色々工夫したけど家具も全部氷じゃ無機質な印象は消えないな。

 家具は幾つか屋敷から持ってくるか。

 ただ、見栄えは結構良い感じに出来た……と思う。


「……何してるのさ?」

「家づくり。流石に皆と同じところで過ごすのはちょっと問題かなって。大丈夫、なるべく不便な思いはさせないようにするから」

「こんな拘束されてる状態でそんな事言われてもね」

「ああ、ごめん。すぐ解くよ」

「えっ?」


 ノエルを縛っていた鎖を全て解くと、彼女は一瞬だけ呆気にとられた表情を見せるも即座に駆けだした。


「っ、マスター!」

「大丈夫」


 僕を攻撃するつもりだったのか横をすり抜けて逃げるつもりだったのかは分からないけれど、とりあえず捕まえた時と同様に足場から崩してひっくり返す。

 ノエルが拳の勇者だったのが幸いしたな。足さえ封じれば無力化も一気に楽になる。


「く……」

「ノエルの立場ならそうしなきゃいけないんだろうけど……じゃあ、こう言えばいいのかな?」

「……なに?」

「ここは言ってみれば魔王領。そこで君に勝ち目は無いし、仲間の魔王だって大勢暮らしてる。下手に暴れようとするより、ひとまず大人しくして様子を見ていたほうがよほど有益だ。……多分ね」

「そこは断言するとこでしょ……」


 つい日和った語尾を呆れ気味に突っ込まれた。

 その姿からは、さっきまで感じていたような突破口を探ろうとする気配は無いように思える。

 この状態をずっと保てればいいんだけど……。

 そんな事を考えつつ、僕は新たに作った家の説明に移った。


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