80.エルトーグ砦
「――それにしても、まさか『凍獄の主』と『天裂く紅刃』が繋がってるとはねー。それだけ聞いたらこの世の終わりみたい」
「そんな大げさな……」
「しかも他の魔王も従えてて、終いには魔人、だっけ? 人間まで魔王に近づけるなんてとんでもないわ。勇者だっていろんな意味でアテにならないし」
「まぁ万が一そんな事になっても、この大陸の神様がなんとかしてくれるんじゃない? 人間好きみたいだしさ」
余計な事まで口走らないか、いやに気の抜けない雑談をしながら進む事しばらく。
目的地、ディアフィス西部に位置するエルトーグ砦が遠目に見えてきた。
コーネリアたちを乗せた氷竜には砦を迂回して進むよう指示を出し、僕自身は気配を絶ち姿を隠して戦場に先行する。
「――ええい、まだ仕留めきれんのか! 真面目にやれ!」
「……っ」
神経質な喚き声の方を見ると、そこには半透明の竜に乗る二つの人影。
あの鏡……無理をしているのか額に汗を浮かべている少年がヘンリーか。
そうなると後ろに乗っている男が後見のツーベリオ家当主、セグベオってところだろう。
「――『蒼き息吹』」
純粋な冷気をちょっとした大砲のようにして上空から放つ。
ヘンリーは直前に魔力を感知したようだけど反応は間に合わず、不意打ちの一発は彼らの乗る竜の翼を撃ち抜いた。戦場とは思えない装飾過多な装束に包まれたセグベオの右腕も巻き込まれたが、それはどうでもいい。
「っ……!」
「な、がッ……腕、俺の腕がァぁあ!?」
隠密は維持したまま、体勢を立て直そうとするヘンリーと悲鳴を上げるセグベオから距離を取る。
上空には彼らが乗るのと同じ半透明の竜、そして地上にはやはり半透明の獣。
幻とも人形ともつかない奇妙な群れが、フィリたち三人を取り囲んでいた。
幸い戦況はそこまで深刻なものじゃなかったらしく、フィリの操る雫の弾幕を主軸にヴァンもネロも大きな傷もなく奮戦していた。
「――来たれ、生命刈り取る冬の牙。陽を喰らい、鼓動を縛り、世界を闇に閉ざす者よ。我が命の元、矮小なる虚像を葬り去れ! 『凍滅竜群』!!」
イメージの根底にあったのはラルス……陰陽乱す妖狸の幻が生み出す巨大な鎖。
それと今目の前を埋め尽くしていた半透明の軍勢をモチーフに、生み出したのは無数の氷竜。
思ったより多めに魔力を持っていった氷竜たちは容易く敵を引き裂いていく。
「おっと……『凍隷人形』」
あくまで一時の攻撃のために生み出した氷竜はすぐに消滅する。
その前に手頃なところに居た半透明の竜を凍らせて支配権を奪い、隠密を解いてフィリたちの元へ。
「っ……クロア――ユウキ……!?」
「お疲れさま、迎えに来たよ。とりあえず今のうちに乗っちゃって」
「おう、助かったぜ! やっぱ凄ぇなユウキ!」
「そちらこそお疲れさま。目的は果たせたのかい?」
「まぁね。成果は上々ってとこかな」
ネロの問いにそう応えつつ、さっさと上昇して戦場を離脱。
コーネリアたちを乗せた氷竜と合流する。
「あら、おかえり。一緒に居るのが例の?」
「うん。僕の後ろから順にフィリ、ヴァン、ネロ。フィリが魔王でティス……リバルティスの眷属だね」
「ユウキ、その子は?」
「アーサー攻略のキーパーソンで――」
「――コーネリア・シャスティ、貴方たちに協力するディアフィス……ううん、サグリア王朝の貴族よ。よろしく」
「へぇ、アンタが……よろしく頼むよ」
コーネリアの自己紹介に年齢二十歳って付け加えようと思ったけど、そういえばネロたち眷属も似たようなものだったなと思い出す。
ん……? いや、逆か。まぁいいや、言うタイミングを逃した。
「ところでフィリたちはどれくらい余力残ってる?」
「……まだ、戦える」
「持久戦を見越して温存しながら戦ってたからな。力はだいぶ残ってるよ」
「それにダメージだってほとんど無いしな! なんだ、またどっかに殴り込むのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
そう応える彼らの様子を見る分には確かに大丈夫そうだ。
一応念のために氷竜の高度だけ上げて、と。ロマクス家で保護した姉弟の説明はコーネリアに任せるとする。
「僕はバルーたちの応援に行ってくるから、皆は先に帰ってて。フィリたちは万が一の時の護衛をお願い」
「……分かった」
フィリがコクリと頷いたのを確認し、僕は進路を東……ソイトス砦に向けた。




