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8.魔王領――6

「――ってことなんだけど」

「「はぁ……」」


 考えていたことを一通り話すと、二人から返ってきたのは呆れを含んだ溜息。

 トゥリナが水の手を生み出して広間の隅に掛かっているベルを鳴らす。

 主に食事の時なんかに使うそのベルは集合の合図。

 部屋から出てきた子供たちはあっという間に広間に集まった。

 シェリルが皆に事情を伝えると、その反応は残念なものを見る冷たい視線と苦笑いに分かれた。

 レンが前に出て口を開く。


「ユウキ。今の俺たちなら数日の留守くらい平気だ。一人一人が並の狩人や兵士より強いし、生活力だって十分にある。集団としての問題も無い」

「いや、でも皆まだ子、供……だし……?」

「どうした?」


 改めて皆を見渡すと何かおかしい。

 皆は大体小学生くらいの子供たち……のはずだった。年長のレンとレミナが中学生に見えるくらい。

 感覚は高校生の僕から見ても年下だった。僕の記憶が確かなら、それで間違いない。


 ……でも、今広間に集まって僕に視線を注いでいるのは皆同じ年くらいに見える。

 いや、僕が高校生にしては身長高めだったから背丈で抜かれてはいないんだけど。

 記憶を振り返ってみると、ゆっくり……でも人間の成長にしては速過ぎるスピードで子供たちが成長しているのが分かった。


「えっと……ところで、皆って今何歳?」

「十四だ」

「十五よ」

「十二歳だぜ」

「十歳……」


 やっぱり、僕の思い違いじゃないよね?

 どういうことなの……。


 分からないことをいくら考えても答えは出ないわけで。

 話を戻すと、レンの言葉に反論する余地は何処にもない。

 ちなみに勇者クラスの外敵に結界が破られる可能性について言うと、お前は隕石や地震の危険まで一々心配するのかと一蹴された。

 僕がいなくても問題ないと突きつけられたようで、少し寂しくも……って、当初の目的を考えればそれで良いのか。

 あ、でも勉強とかやるべきことはちょっと残ってるんだった。

 彼らから手が離れたら、僕がやる事は……そっちは後で考えることにしよう。


「なら、心置きなく行ってくると良い」

「というか毛皮じゃない服が欲しいー」

「卵料理も食いたいしな」


 そういえば、そっち(衣類)の問題もあったか。

 元から彼らが着てた服は魔力で強化したから下手な鎧より丈夫で、何年着てても成長に合わせて大きくなるくらいにはなってるけど……。

 男子勢はともかく、女子は新しい服が欲しいのも道理だろう。

 卵は森にある鳥の巣から取れないわけじゃないけど、僕が環境への影響を心配して自主規制した結果、食卓に並んだのは実に二回だけ。

 皆が全員の一食分になるまで地道に集めた分くらいだ。

 じゃあ、本と紙に加えて……服と毛皮を買ってくれば良いことになるな。


「ところで、具体的な計画は考えてあるの?」

「ああ、そっちは一応。ド田舎育ちの狩人のフリをして、荷車に熊と鹿を積んで売るつもり」

「そんな恰好で?」

「……あ」

「獲物は僕たちで仕留める。凍死した野生動物なんて狩ったにしては怪しすぎるからな」

「あ、うん。ありがとう」


 レミナたちに指摘されるとぐうの音も出ない。

 そういえば僕も基本はこっちに来た時の制服のままだったな。

 獲物の仕留め方とか考えてなかったし、危ないところだった。


「――じゃあ、服に関してはシェリルが……」

「狩りはレンとオリクとヴァンと……」

「計画の確認を……」

「あー、ストップ! 気持ちはありがたいけど、今日はもう遅いから皆部屋に戻って休むように。続きは明日ね」


 突発的に始まった相談を中断して皆を部屋に帰す。

 さて、と……。

 人気の無くなった屋敷内を掃除して回る。

 元からそう汚れてるわけでもないからそんなに手間はかからない。

 外に出ていつもの特訓を一通りこなし、風呂に入って汗を流す。

 今回は素の速さで特訓したから、朝まで考え事をするくらいの時間はある。


 考えるのはさっき思ったこと。皆が独り立ちできるくらいになったら僕がどうするのか。

 やっぱり一番は日本に……家族の元に戻ることだ。

 ただ、これはかなり厳しい。

 今のところ分かっている手段は勇者に殺られることだけだし、それでまた日本に転生できるかは不確か。

 それをクリアしたとしても時代がずれれば無意味。

 あと欲を言うなら今度は赤子からのやり直しなんかじゃなく、「守矢優輝」として帰りたい。


 それなら僕がするべき事は勇者との再会か。

 少なくとも話が出来る状況まで持っていって、そこから狙って異世界の特定の時間に渡る方法があるか尋ねる。

 勇者が何か問題に巻き込まれているなら何とかしないといけない。

 そして何より、その勇者自身に殺られないだけの強さがいるな。

 町一つ壊滅させるくらいだから、何事もなく穏便に話し合いに入れるとは思わない方が良いだろう。

 戦力は前の戦いから想像する他無いけど……まあ、出来ることはあるか。無理だけはしないよう気を付けながら動くことにしよう。


 まあ、今は何より皆の為にも大陸の情勢をきちんと把握することに努めるのが最優先だ。

 そっちについても十分に考えておかないといけない。


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