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71.魔王領――43

 ――今日も今日とて降り注ぐ武器の雨。

 その中に紛れて、とてもじゃないけど人間の扱うサイズじゃない大斧が襲い掛かってきた。


「ふッ……」


 氷で生成した双剣を束ねて大剣に変え、力任せに振るう事で大斧を吹き飛ばす。

 その後はまた得物を双剣に戻し、降り注ぐ無数の武器をひたすら弾き続ける。


「ユウキさん、もう少しペース上げますかー?」

「うん、お願い!」


 ラルスの声にそう応えると、武器の雨は更に勢いを増した。


 「山河穿つ一滴(ナジアンフィリ)」と「陰陽乱す妖狸(ラカルスマーグ)」、二人の魔王を結界に招いてから数日。

 昼間は増えた面子も含めての連携を試合形式で模索し、睡眠を必要としない魔王組は晩も眷属の皆の邪魔にならないよう気を付けつつ訓練を続けていた。少し離れたところではティスたち他の魔王も武器の雨に立ち向かっている。


 元々はラルスの幻影攻撃に巻き込まれないようになるための訓練だったんだけど、言うは易く行うは難しって事か経過は芳しくなく。

 で、いつの間にか訓練の趣旨まで変わって今に至るってわけだ。

 今までの訓練とはまた違ったアプローチからの特訓になってて、そっちの意味での手応えは悪くない。

 それに今みたいに大雑把な使い方だとラルスにも容易い仕事らしく、おかげでティスたちも纏めてそれぞれ自分にあった難易度での訓練が出来ている。

 状況として想定するなら、人間の軍隊とぶつかった時とか? あとは勇者でもアーサー(弓の勇者)マチルダ(杖の勇者)辺りがこういう攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられるな。


 今のスピードにも慣れてきたところで周囲に視線を移す。

 僕と同じように迫って来た武器を弾くスタイルを取っているのはティスとバルー。

 ランカとフィリは魔法で武器を散らして安全圏を生み出すやり方。

 無数の触手とそれに纏わせた氷を操って武器を薙ぎ払うリエナはその中間ってところかな?


 見た感じの印象だと、相性良く立ち回れているように見えるのは魔法で空間的にも余裕がある魔法組。リエナも分けるならこっち側か。

 ただ、実際に動いてて楽なのは近くの武器だけ物理で弾く方法でもある。やっぱり相手にする範囲が広くなると力も分散するし、攻撃の密度が上がってくれば苦しくなる。

 とはいえ他の味方を守りながら、とかだと魔法を使った方が断然確実だし、想定する状況によって色々変わってくるものではあるんだけど。



 やがて集中が切れて被弾しそうになる場面も増えてきたあたりで幻影相手の特訓を切り上げる。

 少し休んだ後は適当に魔王同士で組んで試合を行う。

 東の空が白み始めるのを合図に屋敷へ戻り、晩の特訓は終わり。



 そして、その日の昼。

 いま試合をしているのはリエナとネロ、カミラのチーム対バルーとゴドウィン、ルートヴィヒのチーム。

 ゴドウィンの援護を受けたバルーが突撃しようとすればネロの突風がそれを阻み、リエナの追撃はルートヴィヒが空間を爆破して凌ぐ。


「――これだけ動けるなら、もういけるんじゃない?」

「そう、だね……アベル、同じ勇者から見たらどう?」

「……ここがお前たちの領域である事を差し引いても、無理さえしなければ問題は無いだろう」

「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくる」

「よろしくねー」


 アベルの言葉に頷き、ティスに見送られてそっとその場を離れる。

 木立の一つの中にある開けた空間。雪像を作ってクリフを呼ぶ。


「――『凍獄の主(クロアゼル)』、何用だ?」

「準備が整った。前頼んだようにお願い」

「承知した。……確か、日取りは五日後だったか」

「うん」


 ……五日後。

 クリフの確認を肯定し、改めてその意味を噛み締める。


 クリフに頼んだのは宣戦布告……とは、少し違うか。

 現在ディアフィス聖国と国境で睨み合っている三つの陣営……西のセジングル王国、東のリルヴィス共和国、そして北のエルナガル連邦。その前線を率いる指揮官へのメッセンジャーだ。

 伝える内容は単純なもの。

 五日後に「天裂く紅刃(リバルティス)」の一派がディアフィスへ攻撃を仕掛ける、そちらに被害を出すつもりは無いからその際は呼応して攻勢に出てほしい、という事だ。

 まぁ、最悪なんの反応が無くても問題はない。うまくいけば助かる程度のものだ。


 本当の狙いは勇者――それも、王都セントサグリアの番人たるノエル(拳の勇者)を引っ張り出す事。

 そのために僕らは魔王とアベルを中心に七組に分かれ、それぞれディアフィスに重要な拠点を襲撃する事になる。

 極めて高い感知能力を持つノエルさえ引き離せれば、王都での工作の障害はほぼ無くなると言っていい。

 そうすれば……。そう考えていると雪像が口を開いた。


「――頼まれた言葉、確かに伝えたぞ」

「ありがとう。反応はどうだった?」

「さてな。どの陣営も話半分と言ったところだが、これでも反応としては悪くない部類だろう」

「そもそもティスの……というか魔王リバルティスの活動が久しぶりだからね。それも今までとはかなり違う形だし」


 クリフに説明するというより、自分で確認するかのようにそう呟く。

 ……五日後、か。

 曖昧な不安を握り潰すように、そっと手に力を込めた。


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