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7.魔王領――5

 ――模擬戦でレンが急成長してから更に一週間。

 他の子供たちとも個人で模擬戦をしたところ、多少の個人差こそあるものの皆同じように急成長を遂げた。

 サグリフにレベルみたいなゲームじみた概念があるのかは知らないけど、魔王と戦って膨大な経験値でも得ているんだろうか?

 ちなみに僕は、まだ相手の二倍よりスピードを落とせない。

 一応皆が寝た後の時間を使って訓練してるんだけどな。

 槍に斧に短剣二刀流……様々な武器を振り回す皆を見ると、僕も剣以外の武器も練習した方が良いかなって気になる。

 というか夜の訓練じゃ使ってるけど……なんだかんだで剣が一番防御に使いやすくて、模擬戦だと他の武器は使えてない。


「おっと」

「ご、ごめん」

「別に良いよ。威力は中々あったし、後は精度かな」

「ああ」


 雪原の一部の氷を強化して、他の子供の足元から飛び出しそうになった岩の棘を抑え込む。

 オリクは武器を使った時の堅実な戦いとは裏腹に、魔法は結構おおざっぱみたいだ。


 ――今は三日くらい前から始めた魔法の訓練の最中。

 ついでに僕も、降り注ぐ魔法に出来るだけ感覚を鈍らせた状態で対処する特訓をしている。

 魔力を使い切るくらいの勢いの特訓が良かったのか、僕が的になっているからなのか、それとも子供たちの成長率によるものなのか。

 理由ははっきりしないけれど、魔法の方も皆目覚ましい成長を見せている。

 それぞれの得意属性に加えて小技大技みたいな使い方のバリエーションも豊富で、見ていて楽しくもある。


 それにしても、身体を動かしてばっかりだな。

 一応しりとりとかマルバツゲームの類も紹介したし、暇な時はやってるみたいだけど。


 ……勉強を始めたら……嫌われるだろうか。

 まあ計算とか社会の仕組みくらいは覚える必要がある。

 ただ……。


「紙が無いんだよなぁ……」

「な――!?」

「シェリル、どうかした?」

「だ、誰にも言わないから!」

「へ?」

「大丈夫、オリクの親父もヅラだったから! その内オリクも仲間になるし!」

「違う! あと他人のハゲ事情は暴露しないであげて!」


 風呂を沸かした帰りに通りすがったシェリルの誤解を解く。

 二週間近く過ごして、それなりに打ち解けてきたのは良いんだけど……いや、良いことだ。うん。

 オリクの毛根に、何かしてあげられる事は無いのかな……?


 と、それより今は勉強だ。

 僕自身サグリフの社会なんかには詳しくないから、情報を集めないといけない。

 本だってそれなりに普及してる世界だし、集めるのはそう難しいことじゃない。

 問題は留守にしなきゃならない事。外敵怖い。

 外の状況が分からない以上、日帰りが出来るかも定かじゃないし……。


 なんて悩んでいるうちに時間は更に過ぎていく。

 着手していたタスクに関していえば成果は上がってる方なんだけど……。


 例えば子供たちが実戦の意味も兼ねて結界内の猛獣を狩るようになったり。

 ちなみにもう皆、熊だろうが鹿だろうが一人でも余裕を持って仕留められるらしい。

 魔力による肉質への影響もそれなりにコントロールできるようになってきたり。

 ちょっと手間はかかるけど最初から肉を柔らかくしたり臭みを消したりできる。

 計算に慣れさせておく目的で紹介したちょっとしたゲームが、娯楽が少ないこともあって割と流行ったり。

 僕の成績はおよそ平均くらいってのが悔しくもあり嬉しくもあり。


「うーん……」

「…………」

「トゥリナ、どうかした?」

「!」

「ほら、行っちゃおうぜ」


 広間でお茶を飲みながら考え事をしていると、通路側からチラチラと見える水色の髪が目に入った。

 声をかけると驚いたように引っ込んだ後、シェリルに背中を押される形で出てきた。

 とりあえず二人分のお茶を新しく用意して席を勧める。


 トゥリナは子供たちの中でも幼い方――だったはずだけど。

 あれ、記憶違いかな? レミナとそう変わらない年齢に見える。

 北域の多くの例に漏れず色素が薄めの髪は綺麗に見えるけど、トゥリナはその中でも特に透き通った色をしている。

 まあシェリルみたいに鮮やかではっきりした色も綺麗には違いないし、印象というか方向性の違いか。

 武器は短槍を使うけどそっちは少し苦手で、水魔法を得意としている。勉強に関しては子供たちの中でも一番の成績だ。

 割と内気な性格で、シェリルみたいな人懐っこいタイプの子とよく一緒にいる。

 ……余談だけど、シェリルは剣と槍の変則的二刀流を得意としていて炎魔法も上手いし、おまけに料理もできる。ただ、その代わりなのか勉強はダントツの最下位なのが玉に瑕。


「それで、何かあったの?」

「……そうじゃなくて……その……最近、ユウキさんが何か悩んでるみたいだったから……」

「あー、別に気にしなくて良いよ。大したことじゃないし」

「大したことじゃない事で何日も悩むかよ。俺も気になるし、話してみろって」


 む……。

 ちょっと怒った様子のシェリル。トゥリナの視線も少し厳しい。

 少し迷ったけど、結局考えていたことを全部話すことにした。

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