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66.雪原――3

「…………」


 ……焦がるる忌腕(ネシェーリエン)。本体も、そこから伸びた無数の触手も、完全に氷の中に封じ込められている。

 後は砕くだけ……その段になって、少しの躊躇いと同情が生じた。

 まぁ、ここまで優位に立ってから感じるようなそれの醜悪さは割と自覚あるけど。でも、出来るなら手は汚したくない。それはラミスだけじゃなく、僕自身にも思ってる事であって。

 片手間に雪像を呼び出し、クリフの意識が宿ったのを確認して声をかける。


「ティスがやってるみたいな眷属化って、僕にはできないの?」

「……結論から言えば、不可能ではない。だが……」

「……だが?」

「『天裂く紅刃(リバルティス)』とて、倒した全ての魔王を眷属として従えられたわけではない。暴走の程度が重いものであれば不可能だった事も多い」

「この魔王は……ネシェーリエンはどう?」

「リバルティスであれば不可能だっただろう。だが、汝であれば……その氷で存在を安定させてやれれば可能性はある」

「分かった」


 クリフの指示に従い、氷を少しずつ変質させていく。

 瘴気の浸蝕に崩されないように、でも僕ではなくネシェーリエンの意思に従って動くように。

 それに伴って再び暴れだそうとする触手は、別口に作った氷の枷で一時的に押さえつけておく。

 最後に契約の証的な感じで僕の魔力を刻みつけて……と。


「っ……」

「――!」


 身体から魔力だけじゃなく、色々なものが抜けていくような感覚。軽い眩暈に襲われるも、ふらつく事なく踏み止まる。

 対するネシェーリエンも一度硬直し、その動きを止めた。ぐらりと傾いた身体を氷手で受け止める。


「……成功だ」

「そう、ありがと」


 氷で与えた仮初の身体は本人に合わせて最適化されている途中との事。とりあえずラミスも連れて、少し離れた林まで移動して身を隠す。


「ネシェーリエン、と言ったか? それで……この魔王はユウキの眷属になったと」

「そうだね。どんな感じになるのかちょっとイメージはできないけど」

「分類としてはレンやシェリル達ではなく、バルーやランカの側になるんじゃったか?」

「うん。クリフ、一般的にそういう眷属ってどんな感じになるの?」

「曖昧な表現だな……一般的にと言っても、他の魔王を倒して従える魔王などリバルティスと汝ほどのものだ。倒した相手を従えようなどという物好きがどうという以前に、魔王同士が出会う事がそもそも少ない」

「む? じゃが、セジングルには二人の魔王が居るではないか」

「あれはまた別の意味で特殊な類だ。尤も力を持ちながら争いを嫌った者同士が生き永らえた先に出会うというのはある種の必然と言えるかもしれぬが」


 そんな事を話しているうちに、ネシェーリエンの様子が落ち着いてきた。具体的には触手が身体の内側に引っ込んでいき、氷の身体も普通の人間のように変化し――って、裸!?

 羽織っていたローブを脊髄反射的に脱いでその身体に被せる。


「のじゃ!? い、いつの間に――……」

「ラミス?」


 ネシェーリエンの人化に驚いたラミスの反応が不自然に途切れた。その視線を辿り……納得する。

 ラミスにそっくりの顔をした少女。

 それが、ネシェーリエンの得た姿だった。

 まぁ、そうは言っても違いは割とはっきりしている。この世界に来てから見た中ではかなり珍しい部類の深い藍色をしたラミスの髪に対してネシェーリエンのそれは雪のような白銀。

 この分だと瞳の色も違うんじゃないかな? なんとなくそう思う。


「ふむ……自我が薄かった分、個性の表れが弱かったか」

「ラミスの姿を真似たってこと? 見た感じ僕の要素が混ざってるようには見えないけど」

「それ以上の事は我ではなく本人に尋ねるべきだな。無意識的なものであれば答えが得られん可能性もあるが」


 ふむ……さて、これからどうしたものか。

 もう事前に目星をつけていた旧サグリフ王朝の家臣には大体話をつけた。

 本来ならこれから会いに行く予定だった人とか、多少残ってるのもいるけど……。

 脳内で彼らとネシェーリエンを天秤にかける。

 ……主要な人たちは大体抑えてるし。ここは貴重な戦力になるかもしれない新たな眷属を優先しても、バチは当たらないかな?


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