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64.雪原

 先日(3/24)の補填分の投稿となります。

「ん……」


 風とか冷気を遮断しつつ全力で飛んでいると、じきに危険な気配を帯びた魔力を感じた。この手応えだと……もう少し先か。方向を微調整し、より警戒を強めながら進んで行く。

 このままいけば十中八九、暴走してるっていう魔王とぶつかるわけだけど……。


「どうかしたのか、ユウキ?」

「いや、別に……」


 腕の中で丸くなっているラミスに視線を落とす。どうしよう……他の魔王との交戦中なんていう、僕がフォローに動けるかも分からない状態で一人にするのは不安だ。

 かといって魔王と戦う場に連れて行くってのも……クリフだって戦闘面での能力は期待できないし。

 小回りが利くからって二人であちこち回ってたのは失敗だったかな。少し反省するけれど、それで事態が好転するわけじゃない。

 思考が同じところでグルグル回る中、標的と思しき影が遠目に確認できるところまできて――。


「……ラミス。一人にするのは心配だからこのまま連れてくけど、なるべく離れないようにしてね」

「分かっておる。元よりそのつもりじゃ」


 やむを得ず判断を下してラミスに念を押すと、伸ばした手で軽く頬をつねられた。

 僕も悪いとは思ってるけどさ……なんか心配が拭えない。本当に大丈夫なんだろうか?


 さて……。

 …………。

 えっと……。できれば背後から先手を取りたいところだったんだけど。

 どっちが前なんだ?


 展開した結界で身を隠しつつ近づくと、その魔王は紫色をした不定形の靄のようなものに全身を包んでいた。

 ジョギングくらいのスピードで滑るように進む身体は絶えず不規則に揺れていて、中身がどうなっているのか全く見当もつかない。

 移動した跡も紫色に蝕まれているのを見るに、毒とか瘴気とかそういう属性っぽいとは思うけど……。


 相手が開けた場所にいる今のうちに仕掛けてしまいたい。それに、ラミスの王旗(パンディエラ)の影響か結界の維持が地味に辛い。

 深呼吸を一つして覚悟を決め、ラミスを背中に回す。


「じゃあ、行くよ」


 半ば自分に向けた言葉を合図に、相手の進行方向を前として魔王の右側へ着地。

 ダミー代わりの氷翼だけその場に残して僕自身は雪煙に紛れる形で背後へ回り込み、右手を真っ直ぐに翳す。


「凍りつけ――『凍嵐蒼華(ダイヤモンドダスト)』!」


 吹雪を大砲の形に圧縮して放つイメージ。

 冷気の奔流は相手の魔王が何かしら反応を示す前にその全身を呑み込み……元のサイズより一回りほど大きい氷塊を生み出した。

 そのまま砕こうとするけれど、妙な抵抗を感じる。


「倒しきれない、か……」

「ユウキ?」

「凍らせるのが駄目なら、どうしたものかな」


 幸いここは雪原、僕の結界(領域)に限りなく近い環境だ。手なら色々と打てる。

 まずは氷塊と距離を取り、ラミスを降ろしていつでも防御できるよう魔力を集中させておく。

 それと並行して生み出すのは氷像。クリフの意識が宿ったのはすぐ分かった。


「アレは……『焦がるる忌腕(ネシェーリエン)』とでも呼ぶか」

「え、魔王の名前ってクリフが決めてたの?」

「一概にそうというものでもないが些細な事だろう。それより、奴は――」

「ッ――!」

「のじゃっ!?」


 言葉の途中で、魔王……ネシェーリエンを封じていた氷から感覚が消える。それと同時、浸蝕されるように紫に染まる氷の封印。

 反射的に氷壁を展開し、その途中で脳裏に過った嫌な予感に従いラミスを掴んで横っ飛びに地面へ突っ込む。


 視界に映ったものは、氷の封印など無かったかのように飛び出す無数の手……いや、触手?

 それは氷壁にぶつかった瞬間べちゃりと潰れた。一瞬遅れて紫に染まった氷壁が溶け崩れ、別の触手が雪像(クリフ)の身体を薙ぎ払った。雪像は氷壁同様に溶けて崩れる。


 ガード不能……そんな言葉が思い浮かぶ。

 僕は体勢を立て直しながら再び氷翼を展開し、追い縋る紫の触手から上空へ逃れた。


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