6.魔王領――4
「ふぅ……」
「さて、と……」
模擬戦が終わって倒れていた子供たちのうち、女子組が夕食を作りに戻っていく。
サグリフじゃ食べ物は魔力を含んでいるほど美味しくなる。まあ、限度を超えると好み次第の味になってくるけど。
そして魔力ってことなら、幸い良い感じに有り余っている。
皆の料理の上達も合わさって最近の食事はかなり美味しい。
一日中大量の魔力を与え続けると野菜は急成長するし、自給自足の体制は整ったとみて良いか。
強いて問題点を挙げるなら種類が限定されることくらいか。
そっちの対策はまた考えよう。
……こっちでも、最上級グルメとかになったら土や水とか栄養みたいな魔力以外の要素にも拘ってるのかな?
ちなみに今は野生動物を生け捕りにして魔力を与え、肉質の改善を図っているところ。
野菜ほど無理に魔力を与えられないから難航気味。
留守にするリスクを冒してでも、食肉用の家畜を買いに出るかな……。
子供たちを信用してないわけじゃないけど、それでも何かあったらと思うと心配だからなー……。
そんなことを考えていると、起き上がったレンが近づいてきた。
「ユウキ……」
「ん、どうかした?」
「その……木刀以外の武器も欲しいんだが……」
「槍とか、斧とか……」
「あと、衝撃波はもう出なくても良い、かもしれない」
他の男子勢も加わって、遠慮がちに補足する。
あ、やっぱり衝撃波なんて安全装置はもう要らないですよね。
確かに武器には適性もあるし、色々と用意するのも必用か。
うーん…………。
「良いよ。じゃあその話は、明日に全員で訓練するときに」
「分かった」
「あとレン、ちょっと訓練に付き合ってくれない?」
「……え?」
呆気に取られた表情をするレン。
とりあえず僕の強さなんて速さと筋力と魔力くらいだってこと、技術は完全にレンたちの方が上ということを説明する。
レンは凄く納得いかない様子だったけど、相手にはなってくれるらしい。
少しスペースを広めに取り、木刀を構えて向かい合う。
「そっちからお願い」
「……ああ」
木刀を腰溜めに構えたレンの突進。
それに対して僕は、時間の感覚を……最初だし、余裕を持っておくか。レンの三倍くらいに調整する。
試すのは受け流し。
攻撃の軌道に自分の木刀を合わせ、勢いに逆らわずに方向を逸らす。
淀みなく放たれた膝は膝をぶつけて相殺。
「うおっと――」
すると……今度は空いた左手が伸びてきた。
片足で強引に地を蹴って後ろに逃れる。
追い縋るレンはその僅かな時間で体勢を立て直してくる。
繰り出された連撃は滑らかで、防いでも流しても止まらない。下がれば下がっただけ踏み込んでくる。
かといって先程のように無理に距離を取ろうとしても、隙を見せるリスクの方が大きいだろう。
なら、前に出てみると……。
「逆効果だったー!」
「…………」
木刀に体術まで加わり、むしろ攻撃は苛烈になった。
思わず漏れた呟きにもレンは無言。
脚も攻撃に回した結果として、距離を取るのは多少簡単になったのが救いか。
そして戦況は止まらない連撃の前に防戦一方だった段階へ戻るわけで。
なら今度は横に逸れるか……お、今度は正解だったっぽい。
攻撃の手が多少緩んで少し余裕が出てきた。
動きにも慣れてきたし、もう少し感覚鈍らせても良いかな――って……あれ?
この模擬戦で僕は感覚を一定ラインまで鈍らせてから変化させていない。それは今確認しても明らかだ。
……なのに、レンの動きは僕の三分の一なんてものじゃない。実に僕の半分くらいだ。
概算して最初の1,5倍。
仮に。仮に同じペースで成長し続けるとすると、今日を基準として明日はまた1,5倍。明後日は2倍弱。来週には15倍強。
…………まさか、ね?
この年頃の子供だと、集団の中で強い弱いが分かれるのはあまり良くないな。
他の子の進化……じゃない、成長具合を見て、僕の方でも気を付けないと。
「じゃあ、今回はこの辺で……」
「…………っ!」
幾つか攻撃も試してみるけど、やっぱり速度に差があると防御は追いつかないみたいだ。
……それでも最初の方はきっちり防御してくるのはさておき。
感覚を加速させて木刀を取り上げ、衝撃波で軽く吹き飛ばす。
理想を言うなら、これを互角の速度でもできるようになりたいな。