54.フィキシア――4
「――で、尋ね人は来たの?」
「ううん。おかしいな……」
弓の勇者との交渉を終えて合流したティスに尋ねると、彼女は困ったように首を横に振る。
とはいえ最大の懸念事項だった勇者は抑えたわけだし、ゆっくり探せばいいだけの話だ。
今更変に怪しまれても困るし、ある程度行動は選ぶ必要があるけど……。
「割と強めに魔力探知したから、向こうは気づいてるはずよ」
「……なら、可能性は二つだ。この街にいないか、意図的に無視しているか」
「いや、三つだよ。もしくは何らかの要因で、ティスの魔力が届かない状態にあるか……だ」
疑わしそうな目をしたアベルにすかさずフォローを入れる。
一応味方につけたとはいえ、あまり信用を失えば再び敵対しかねない。なるべく余計な疑惑は防ぐ必要がある。
……ティスの魔力が届いていないとしたら、それはそれで面倒ごとの匂いがするけど。
どうしようかな? そうなったら多少強引にでもアーサーにも手伝わせて既成事実を作るとか……。
色々と考えを巡らせながら、とりあえずティスに簡単な進言を一つ。
「なんにせよ、今の方法で向こうから反応が無いんだったらやり方を変えないと。今度はこっちから見つける為に魔力探知してみたら?」
「そうね。この街の大きさなら……四隅から一回ずつ探ればカバーできると思う」
こっちから探すとすれば、今の面子では「光喰らう魔獣」の魔力を識別できるのはティスだけだ。
アーサーの氷鎖の時間制限もある事だし、そうと決まればあまりのんびりもしていられない。
北東で魔力探知を行った時、大きな反応があった。ティスを追って辿り着いたそこは貧民区の只中。
辺りには他の建物と同じ街にあるとは思えないほど粗末な作りの家が立ち並び、やせ細った子供や老人が不信感に満ちた目でこちらを窺っている。
「ティス。反応はここ?」
「……ええ」
やがてティスは一軒の家の前で立ち止まる。
周りと比べても、何ら変わりのない普通の家。軽く探ってみると家の中には小さな普通の人間の反応が四つ。そして……そのうちの一つが、びくりと震えた。
どうやら子供しかいないらしい。
「思いっきり普通の家みたいだけど。どうするのさ?」
「適当に事情を話して回収するわ」
「……仮に、相手が拒んだらどうする? この場で戦うつもりか?」
「いいえ、それはないわ。契約が生きている限り、眷属が私に逆らう事はない」
「そうか」
そういう言い方されると、ちょっと僕の眷属の皆を連想して地味に嫌だな。
僕の眷属とティスの眷属は色々別物だって分かってはいるんだけどさ。
ティスがゆっくりとドアをノックする。
……反応は無い。
こんなところの家だし、子供しか居ないと考えればある意味当然か。
「…………」
「ティス?」
どうするのかな……と思っていたら、ティスも固まっていた。
あれ、もしかして打つ手無し?
「……どうしよう」
「いやいや……」
まぁ、周囲の人目なんかも考慮すれば案外選択肢が無いのは分かる。
下手に事が大きくなったら、どんな弊害があるか分かったもんじゃないし。
うーん……。
少し悩んだ結果、案は一つに絞られた。
一度その場を離れ、バルログがその隙に逃げないか監視しつつティスに尋ねる。
「じゃあ僕がやってみるよ。ところでティス、バルログの――」
「バルーね。本名で呼ぶと、誰にバレるか分からないから」
「ああ、ごめん。それで、そのバルーの見た目ってどんな感じ?」
「えっと……性別は男で見た目は十代前半ってところ。普段は……能力の関係か、毛皮っぽい服を着てるわ。これは初めてでも見れば分かると思う」
「分かった。じゃあ行ってくる」
「待って。何するつもり?」
歩き出そうとしたところで手を引っ張られて転びそうになる。
内容は……先に話しても問題ないな。
軽く説明して納得してもらったところで改めて目的の家に向かう。
さも最初から決めてあったかのような一定のリズムでドアをノックし、同時にごく薄い冷気の刃で閂を切断、ドアを開ける。
「っ……!」
家の中には子供が二人、そして十代前半の少年が二人。その片方は確かに、狼に似た獣の毛皮のようなものを纏っている。
不自然にならないギリギリの速さで扉を閉め、一般人にも手早く催眠をかけて無力化。
「君がバルー……『バルログ』だね? 『天裂く紅刃』の使いで迎えに来た」
「…………」
「別に、その子たちに何かするつもりはない。君が出て行く事について催眠でちょっと認識をいじるだけだ」
地味に悪役っぽい台詞だな。
あれ、なんか上手くいく気がしないぞ?
嫌な予感は当たったらしく、バルログは一歩進み出る。それは僕についてくるというより、子供たちを庇おうとするかのようで――。
次の瞬間、その身体から黒い魔力があふれ出した。




