表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/169

53.フィキシア――3

「負け、られるか――!」

「ちぃッ!」

「む……」


 左右から襲い掛かるのは魔王を率いる大魔王「天裂く紅刃(リバルティス)」に、ディアフィス聖国を支えていた勇者の一人アベル。

 そんな状況にもアーサー(弓の勇者)は諦めない。ティスの斬撃を紙一重で躱し、光弓でアベルの鞭を受け止め更に後退する。

 ……光矢の連射が、途絶えた。

 これで僕も動けるようになる。


「さて、とっ……!」

「「「なっ――」」」


 これまで展開していた氷盾を槍に変えて放ち、巻き込むのは悪いけどアベルの鞭ごと光弓を弾き飛ばす。

 で、更に追撃しようとしていたティスの前に割り込む形で体勢を崩したアーサーに肉薄。

 魔力を込めた手を伸ばすと、危機感を覚えたか腕で弾こうとするアーサー。構わずその腕を掴み、重い氷を纏わせることで無力化。もう片方の腕も同じように封じ、仕上げに全身を氷に閉じ込める。

 ……これでひとまず、安心かな?

 無表情に炎剣を振り上げるティスを片手で制する。


「ユウキ――いや、『凍獄の主(クロアゼル)』。その手をどけて」

「少し待って」


 氷の封印を見て、少なくともこっちの声はアーサーまで届いていないのを確認。

 そのうえで鞭の勇者の方に振り返る。


「アベル。コーネリアって人絡みでこの人がディアフィスに仕えてるのは知ってるけど、それ抜きで考えればアーサーは説得できそう?」

「……。俺も詳しくは知らん。だが、性格という点で言うならあのシータよりはマシだろう。見込みが無いとは言わん」

「分かった、ありがとう。……ティス、ちょっとこの勇者借りるね」

「借りるって――!」

「説得でなんとかなるんなら、それに越した事はないし。それに……駄目だったら、その時はケジメくらいつけるから」


 氷棺から持ち手代わりの鎖を伸ばすと、軽く飛んで少し離れた路地の突き当りまで移動する。


 ……さて、ある意味ここからが本番だ。さっき戦ってた時と同じくらいに加速した意識の中で考える。

 今回はファーストコンタクト、いきなり味方に引き入れるのは現実的じゃない。何よりアーサーの戦う理由は他人に預けられている。そっちを何とかしないと本当の意味で味方につけるのは不可能だろう。

 まずは警戒されない事。コーネリア関連もあらぬ疑いを避けるにはまだ触れない方が得策か。

 で、次に僕らからアーサー個人への敵意が無い事を伝える必要がある。僕らが敵対しているのはあくまでディアフィス聖国、それも権力握ってる連中と周囲に戦争吹っかけてる連中だけ。

 そこにアーサーや彼が守りたい相手は含まれていない事が伝われば今回は上々と言える。


 周りに人の気配が無いことを確認。いや……ティスとアベルが近づいてきてるけど、乱入されない限りは別にいいか。

 氷を鎖に変える形で、慎重に氷棺を解く。

 直接的な力はアベルやシータに一歩譲るアーサーでも、僕の方もあの時より厳しい条件だったから割とキツかった。


「く……僕をどうするつもりだ」

「別に危害を加えるつもりはないよ。少し話がしたいだけ」

「ふん、襲い掛かってきた挙句に拘束しておいてよく言う」

「あー、それはね……僕だって無抵抗で射殺されるのは嫌だし」


 僕を睨むその目には強い敵意が宿っている。

 でも、話自体には割とすぐ移れそうだ。

 あまり時間をかけるメリットもない、手早く本題に移る。


「改めて言うと、僕に君と敵対する理由は無い。なんでって言うと、僕は戦争を止めるために動いているから」

「…………」

「ディアフィス聖国に大義は無い。それは君にも分かってると思うんだけど」

「……いや、ある。お前には理解できなくとも、僕には戦う理由がある」


 ふむ……たぶんコーネリアの事だな。

 今は深く突っ込むまい。

 多少勘違いしていると思わせたまま言葉を続ける。


「へぇ? ま、僕の計画を簡単に言うと、革命返しって事になるかな。クーデターで国を奪って戦争を始めたディアフィス聖国から、本来の王であるサグリフ王朝に国を返す。それだけ……ああ、もちろんアフターケアはちゃんとやるよ」

「……ディアフィス聖国を、今動かしている者たちはどうするつもりだ」

「どうって……僕、人が死ぬのは嫌いだから。まだ野望を燃やしてるような連中は見逃せないけど、基本的にはサグリフ側の人たちに任せるつもり。それでまた無用に犠牲になる人が出るようなら、その人たちを攫って逃げてもいいかな」

「………………」


 長い沈黙が続く。

 まぁアーサーに対して敵意も無ければコーネリアだって無事を保証する意思はあるよ、と。言っておくべき事は言えたはずだ。

 向こうからこれ以上言うことも無い様子だし、話を進める。


「さて、後は今回の一件についてかな。僕らの方も、色々知られたくない事を知られちゃったからさ」

「何が望みだ」

「んー……そうだな。僕らは探してる仲間を回収したらすぐ街を出る。君は僕らの事なんて何一つ知らないし、そもそも今日遭遇さえしていない。こんなところでどう?」

「それで? 僕に何のメリットがある」

「メリット? 困ったな……アレだ、命までは取らないでおいてやるからって奴? それ以上となるとちょっと思いつかないんだけど」


 ……この状況で、メリットと来たか。

 どうだろ、多少吹っかけられても応じる余地はあるけど……あまり無茶を言うようなら諦める必要も出てくる。

 内心の困惑を隠しつつ冗談じみた言葉で応じると、アーサーはあっさりと首を縦に振った。


「分かった、そちらの要求を呑もう。だが次があればこうはいかないからな」

「うん。そっちの方が僕としても助かるよ」


 とりあえず交渉成立かな。

 探ってみるけど、嘘をついている様子もない。

 これで残るミッションは「光喰らう魔獣(バルログ)」の回収だけか……一時間もあればいけるだろう。

 というわけで拘束を解き、一時間くらい経てばアーサーの手でも破壊できるくらいの氷鎖で腕だけ封じて、と。

 最後に氷の具合だけ確認して僕はその場を離れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ