50.魔王領――36
「――それで、これからの動きについて話しておきたいんだけど」
「うん」
会議室……屋敷の中でも、他より少しだけ広い部屋。
その中心に置かれたテーブルに座ったティスが口を開いた。
彼女と僕の他に席についているのはレンとレミナ、カミラ。そこから少し離れた席にアベルが座っている。
「まずは仲間の回収ね。無事でいてくれればいいんだけど……みんな魔王だから、一人合流するだけでも大きな戦力になるわ」
「……その仲間の居場所に当てはあるのか?」
「ええ。クリフの事、そこの『凍獄の主』から聞いてない?」
「いや……なるほどな。理解した」
「迎えに行くだけなら数はいらないね。向こうにもクリフはついてるって考えていいんだっけ?」
「状況にもよるけどね。まずは連絡が取れるか試してみましょうか」
そこで場所を移し、一度結界の外に出る。
依代にする雪像を作りクリフを呼び出す。
……大陸の意思が携帯端末代わりか。
なんだかなー……いや、便利なんだけど。
「クリフ。皆の状況は分かる?」
「ある程度は、な。すぐにでも連絡が可能なのは『嵐招く徒華』。連絡こそできないが場所の見当はつくのが『光喰らう魔獣』。ただ、『空統べる零王』は一向に感知できん」
「……じゃあ、他の魔王は」
「討たれた。少なくとも『冥界に響く狂声』、『死帝の走狗』に関しては消滅を確認している」
「分かった……まあ、ランカが無事で良かったよ。セレンも上手く逃げたんだろうとは思うけど、何してるんだか」
目途が立っている魔王は大体二人ってところか……。
僕もティスも魔王としては勇者絡みで特に強力な部類らしいけど、そうじゃない普通の魔王ってのがどれくらいの力なのかは予測つかないな。
勇者より少し弱いくらいって認識でいいんだろうか? まぁあんまり強くても不安になるし、我ながら面倒なところではあるんだけれど。
「ランカリデスの方も状況には余裕があるな。話すか?」
「ええ、お願い」
「――ティス! そちらは落ち着いたんですの?」
「っ!?」
いきなり、なんとなく高飛車っぽい印象の声が響いた。
その音源は雪像……クリフ。
さっきまで低いバリトンボイスで話していただけに、そのギャップはなおさら大きい。
え? ……え、どうなってるの?
そんな混乱をよそに会話は続く。
「ええ。なんとかクロアゼルと、その眷属の協力を取り付けられたわ」
「それは良かった。眷属という事は、クロアゼルも他の魔王を?」
「ううん、彼の眷属は私とはまた別。元は人間で……クリフによれば、魔人っていうみたい」
「ふむ……北域最強の魔王というのは変わっているんですのね」
「うーん……そうね、変わり者よ。それより一度合流しましょう。今どこにいるの?」
「セジングル王国の郊外に潜伏していますわ。私は今のところ安全ですので、合流するなら先にバルーを拾うべきかと」
「で、でも……」
「魔王は一人でも大きな戦力になる、そう言ったのは貴女ですわ。王たるもの、私情に流されず判断する理性を持ちませんと」
「…………分かった。でも、何かあったらすぐに連絡して。いい?」
「勿論ですわ。それでは、ごきげんよう」
ティスは雪像に向けて普通に話しかけている。でも僕が聞く限り、受信的な意味で……高飛車な少女の声で話す雪像から、向こう側の雑音の類は一切聞こえてこない。
何か魔法が使われているような感じもない。
一番この現象に納得いく説明をつけるなら、会話相手の魔王の言葉を聞いたクリフが、ランカリデスの声を模して喋っているって事に……?
「ティス、なんかバルログ? の扱いが軽かった気がするけど、なんか嫌な魔王なのソイツ?」
「ん? ああ、そういうのとは少し違うんだけど……なんて言えばいいかな。バルログは私の眷属なの」
「さっきの会話からすると、私たちとユウキの関係とはまた違うみたいね」
「うん。クリフの力もあって、私は魔王を復活させてきたんだけど……正直ユウキみたいに会話が成立するのは少なくて。そういう魔王は一度倒して、眷属として従えてるの。実を言うとさっき名前が挙がったランカ……ランカリデスとセレンペルーシュの二人以外はその手の類なのよね」
「ユウキの眷属ってのが家族だとすると、アンタの眷属は家来というわけか」
「まあ、簡単にまとめるとそうなるのかしら。――ユウキ、どうかした? そんなぼんやりして」
「え? い、いや、別に。それで、結局どっちに行くのさ」
「バルトロの回収ね。クリフ、さっき言ってた大体の場所ってのを教えて」
「いいだろう」
カミラたちが割と真面目な話をしていた事もあって、雪像通話の謎について聞く機会は逃したな。
……あまり気にしない事にしよう。
深く考えてはいけない、そんな気がする。




