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5.魔王領――3

 ――うん、予想通り。

 魔王になった後、普通の人間に襲われた時と同じだ。

 子供たちの突進が、文字通り止まって見える。


 真っ先に斬り込んできたレンとレミナの木刀を受け止め、下から掬い上げるように二度木刀を振るう。

 雪原は走り易いように硬くしてあるけど、吹き飛んだ二人の落下地点はクッション状に柔らかくしておく。

 次いで斬り込んできた子供たちについては木刀を防ぐに留めた。

 皆には僕が突っ立ってるだけなのに木刀を弾かれたように見えるだろう。

 って、それはやる気なくすか。

 なんか赤い髪が目に止まったからシェリルと木刀を合わせておいた。


「「「っ!」」」

「く――って、え!?」

「よっと」

「うわ――!?」


 驚きからか動きが止まったシェリルを吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされた三人の方を反射的に見る子供たちから距離を取り、同時に少し三人の方へ近づく。


「うおおおおお!」

「はぁああっ!」


 飛び起きたレンとレミナが再び突撃。

 それに釣られるように、また全員が向かってきた。

 さっきと同じように全員の木刀を受け止め、今度は位置が良かったこともあってレン・レミナと木刀を合わせる。

 子供たちの中でも年長の彼らは流石と言うべきか、ほとんど停滞せずに第二撃を打ち込んできた。


 そんな感じで攻撃を捌いたり、隙を見て吹っ飛ばしたり、また剣を合わせて追撃を待ったりすることしばらく。

 子供たちは全員思い切り木刀を振ることができるようになっていた。

 まあ、今日の成果としては十分か。

 皆も疲労で動きが鈍ってきてるし、これくらいが潮時だろう。


「「「わぁぁああああああ!?」」」

「ま、こんなもんかな」


 一度で全員を吹っ飛ばし、倒れたところで木刀を回収。

 最後は少し派手に飛ばしたせいか、子供たちもすぐには起き上がれない感じだった。



 ――そうして最初の訓練を終えたのが、一週間前のこと。

 そう、あれからまだ一週間しか経っていない。

 だというのに……。

 例えば、シェリルとオリクの模擬戦。


 開いた距離をオリクが居合の要領で一気に詰める。

 防御ごと弾き飛ばすような勢いの乗った一撃。

 これを凌ぐには距離を開けるかしゃがむかして躱すしかないだろう。次善の策として、前に出てダメージを軽減するくらいか。

 しかしシェリルの動きは更にその上を行った。


「ふ――ッ」

「まだまだ!」

「甘い!」


 両手を添えた木刀で受け、更に体捌きも合わせて完全に防ぎきる。

 渾身の一撃を受け流されたオリクは体勢を大きく崩す……はずだったが、身体全体を使って立て直し、最小限の動きで第二撃に繋ぐ。

 対してシェリルは迫る木刀を足で踏み潰すように迎え撃ち、衝撃波さえ利用して回し蹴りを放った。

 それにもオリクは反応するが、蹴りに続いた木刀までは躱しきれず遂に衝撃波が直撃。

 吹き飛ばされながらも体勢を整え、勢いが収まる頃にはもう構えを取り直しているという有様だ。


「でも、それ以上に……」

「「………………」」


 もっと酷いのはレンとレミナの模擬戦だ。

 躊躇なく顔面に繰り出されたレミナの突きを、ほんの少し顔を背けるだけでやり過ごすレン。

 その突きが横薙ぎに派生する前に空いた手で木刀を封じ、自分の方から斬り込んでいく。

 それを飛んで回避したレミナはあっさりと木刀を手放してレンに肉薄。

 レンもまた木刀を手放し拳を受け止めようとするも、そこで手の動きが変化。

 どれだけゆっくり見ても何がどうなったのか分からないけれど、次の瞬間レンの身体は地面に投げ出されていた。

 レミナは流れるような動作で落ちていた木刀の刀身部分を掴み、レンが反応するより早く首のすぐ横に木刀を突き刺す。


 何が怖いってこの二人、このやり取りの間ほとんど無言。

 動作の前の鋭い呼気とか投げられた瞬間のレンがしまったって表情になるとかはあるけど、実戦さながらというか……鬼気迫る感じだった。

 最後の一幕も角度次第じゃ首に木刀を刺したように錯覚したっておかしくないレベルだ。


 流石にこの二人は群を抜いてるけど、他の子供たちの模擬戦も様子は大体シェリルたちと同じレベル。

 明らかに先週より速くなってるのもそうだし、技術の向上が凄まじい。

 サグリフ(こっち)の普通の子供たちってのがどんな感じなのかは知らないから、身体能力とかはどうしても日本の感覚を参照することになるんだけど。

 勇者とか僕に匹敵する速さでこの動きをされたら、物理戦闘じゃ手も足も出ないんじゃないだろうか。

 少なくとも僕はあんな戦闘技術なんて持ち合わせていない。

 これは……僕も頑張らないと。

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