48.魔王領――34
……結局レンたち眷属も一緒にティスに協力する事が決まった日の深夜。
具体的な話を詰めるのは明日にして、皆はひとまず休んでいる。
そして……僕は結界の外れまで来ていた。
雪の下に意識を向け、埋めていた氷棺を二つ取り出す。中に閉じ込められているのは先日ティスを追ってきた二人の勇者……鞭の勇者アベル、槌の勇者シータ。
僕自身の魔力は問題ない。
昼間は一息に押し切られる形で負けたわけだし、余力自体は残ってる。ダメージも回復してるし、コンディションは決して悪くない。
それに、勇者たちを刺激しないように隠れてって条件つきだけどティスも少し離れたところに待機している。
そういうわけでまずは少しずつ弱まりつつあった封印を補強。
どっちから先に話そうか……冷静そうに見えたのはアベルかな。
慎重に魔力を調節し、首から上の封印を部分的に解く。
「おっと……!」
その段階で時間凍結の効果は失われ、内部から打ち砕かれそうになった氷を素早く補強。
そしてゆっくり氷を溶かし、アベルの首から上だけを完全に自由にする。
「ッ、貴様――!」
「まぁまずは落ち着いて。話がしたい」
氷は半ば不意打ちの状態から意識も封じていたから、相手からすれば突然捕虜に近い状態になっているわけだ。
混乱するのは分かるし、逆にこれで最初から落ち着き払っていたら警戒する。
力を込めて氷棺を砕こうとするアベルを力業で強引に抑えること少し。数分と思ったより短い時間で鞭の勇者は抵抗をやめた。
「落ち着いた?」
「……ああ。少なくとも今、俺がどうにかできる状況にないことは把握した」
「あー、隣の彼女も無事だ、心配はいらないよ」
「構わない。むしろ好都合だ」
「ん? そうなんだ」
チラリと横の氷棺を見たアベルにそういうと、意外な応えが返ってきた。
意味はいくつか推測できるけど……どういう事だろう?
「まぁいいや、本題に移ろう。そもそも君はなんでディアフィスに仕えているの?」
「……それが使命。勇者として召喚されたからだ」
「うん、建て前は分かった。それで本音は?」
「ッ……」
その返答が上っ面のものなのは見れば分かったから、すかさず切り返す。
言葉に詰まった様子の勇者に更にひと押し。
「君はディアフィスに丸め込まれてるようには見えないけど……勇者として駆り出されてるなら気づいてるはずだ。国のやっている事はただの侵略だって」
「…………」
「ディアフィス聖国に大義は無い。義理立てする必要もないと思うんだけど?」
「…………」
話す気は無いか……困ったな。
拷問なんて知識も技術も無いし、何より素面でそんな事したら僕の精神の方が耐えられない。
そんな甘い事を考えていると、アベルはゆっくりとその重い口を開いた。
「……復讐だ」
「え?」
「この世界に召喚されてからできた大切な相手を、奪われた。黒幕が誰かも、もう分かっている。だが……他の勇者を排し正面から殺るには力が足りない」
「だから、機会を得るために自分から尖兵をしてるって事?」
「……そうだ」
なるほどね。
見た感じ今の言葉に嘘は無い。
……こういう言い方もなんだけど、都合が良い。利害が一致する。
「ちなみに、その復讐の相手っていうのは?」
「……第二席の枢機卿、ヴィンター・スターク」
「ふむ……一つ確認しておきたいんだけど、侵略とか無用な闘争とか、そういうのは君の本意じゃないって事で良い?」
「無論だ」
迷いなく頷くアベル。
……ああもう、無駄に緊張するなあ! 肝心な一言が中々出てこない。
それでも意を決して口を開く。
「……あー、ところでさ。僕らはディアフィス聖国に敵対する立場なんだけど。良かったら協力しない?」
「……なに?」
出てきたのは本当に要点だけ抑えた言葉足らずの勧誘。
案の定、アベルは訝し気に目を細めた。




