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47.魔王領――33

「――やっぱ、ルールもう少し詰められたかな……」

「ユウキ!」

「……分かってる。この期に及んで約束を違えるような事はしないよ」


 僕の上からどいたティスの手を取って身を起こす。

 ……まだ少し足元が覚束ないな。とはいえさっきより相当マシではあるし、今の感覚としては軽い車酔いに近い。

 さてと……どうしようか。

 ひとまずレンたちのグループと合流して……ああ、氷狼も放っておくわけにはいかないな。一体はたぶんレンたちにやられてるだろうけど、特に全く役に立たなかったもう一体の方。

 クリフでも呼んで場所を探るか。そう思って依代用の雪像を作ろうとしたときだった。

 何気ない口調でラミスが尋ねてくる。


「そういえばユウキ」

「ん?」

「あの凄まじい魔法を使うときの……ドラクロワが言うような台詞はなんだったのじゃ?」

「うグっ゛」


 思わず変な声が出た。

 あー……そうか。あの時は気にしてる余裕もなかったけど、バッチリ聞かれてたか。

 現実逃避気味に、どこか他人事のようにぼんやりと考える。


「えっと、確か……『永劫の冬よ世界を呑み込めっ。「凍鎖絶界(コキュートス)」!!』だっけ?」

「そう、それじゃ!」

「や、やめ……」


 シェリルには詠唱まで完全に覚えられていた。

 自分でも聞き取れないくらい弱々しい声が出る。

 ……これはキツい。ある意味、今回追い詰められる要因の一つになったドラクロワの雷撃よりつらい。

 思わず光の消えた目で虚空を眺めていると、訝しげな様子のティスが口を開く。


「えっと……あの、詠唱? って意味はあるの? ただの中二病?」

「違う!」


 そこだけは誤解されるわけにはいかなかった。まして相手は同じ元日本人だから猶更だ。

 まだ迷いが残ってはいたけれど、背に腹は代えられない。正直に理由を話す。


「名前をつける事で魔法の根幹であるイメージが補強され、完成度が高まるんだ。このイメージの補強ってのが理由の最たるところで、詠唱をつけるのも狙いは同じ」

「ふぅん……」

「へー、そうなのか!」

「なんなら実際に試してみるといい。ティスやシェリルだと……炎の弾丸を撃つときに『赤弾(レッドバレット)』とかさ」

「じゃあ早速っ……『赤弾(レッドバレット)』! おお、確かにそんな気がする!」


 空に向かって実際に炎の弾丸を放ったシェリルが興奮して飛び跳ねる。

 傍から見る分には気のせいと言われれば頷きそうな変化しかないけど、実際に使ってみると威力だけじゃなく速度、効率、負荷とか全般的に改善されるから実感は得やすい。


「『大地の怒り(ガイアレイジ)』! ……ふむ、確かに」

「蒼き清流よ牙を剥け……『水蛇の噛撃(アクアバイツ)』っ」

「雷よ天を焦がせ! 『暴雷乱衝(サンダーフォース)』!」

「お前はいつも通りだなドラクロワ」


 なんか次々にマネして詠唱し始めた。

 結構スラスラ唱えるもんだね皆。

 形容しがたい居心地の良さを感じて、引きずられそうになっている自分を自覚。改めて心を戒める。


「あー、そうだ。一応言っておくと、詠唱しない方が隠密性とか即効性では効果的な事もあるから、その辺は理解しておくように」


 あまり声を張る元気は無かったけど、たぶん聞こえてるはずだ。まぁ仮に聞こえてなかったとしても皆ならそう時間をかけずに自分で気づけるだろうし。

 なんとなくティスの方を見ると、元日本人の魔王は恥を捨てきれない様子でもにょもにょと小さく呟いていた。


「あー……ティス」

「なっ、なに!?」

「別に無理してまで使う手段じゃないから。一つ助言するなら、口に出さなくても適当な名前をつけて思い浮かべるだけでも効果は出る、とだけ言っておくよ」

「う、うん……」


 眷属の皆とは別の方向で初々しい様子を見て割と楽しんでる気持ちは隠しつつアドバイス。

 で、クリフを呼び出し氷狼Bの場所を確かめる。

 審判代わりでもあったクリフによると、氷狼Bが機能しなかったのはレンたちの功績も大きいらしい。なんでも戦闘中にうまいこと隙を突いてレン・レミナの魔法で幻影を見せ、そこにカミラが生成した毒の効果まで乗せる事で氷狼を実質的に無力化する事に成功したんだとか。

 もう一体の氷狼だって撃破してるし、今回の戦いで遭遇する事こそなかったけどレンたちも中々の実績を上げているなと感心しながら氷狼Bの元へ。

 まだ幻影と戦い続ける氷狼から魔力をすべて返してもらう形で消滅させた。


 ……その後みんなの元に戻ったら、合流していたレンたちに改めて詠唱関連の説明をする事になったのは蛇足か。

 一つ分かった事としては、こういう説明は何回やってもつらい。


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