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43.魔王領――29

 手頃な樹木を見繕って氷の刃で切断。円盤状にカットした幹を、更に切って長方形の板状に整える。

 浮遊する氷のそりに板を積み重ねて修復する穴のところへ。


「うわっ……」


 改めて見た穴周りの状態に思わず声が零れる。

 こっち(サグリフ)に戻ってから全力で誰かに物理攻撃したのは初めてだけど、建物に残された痕跡は中々酷いものだった。

 ティスが貫いた穴を中心に太い亀裂が無数に走り、ガラス代わりにしていた氷も割れるかヒビが入っている。

 もともと屋敷を保護していた魔法を突き破って吹っ飛ばしたわけだから、考えてみれば威力は察しがつくものだったけど……ティスがきちんと防御してくれて良かった。

 身体は本当に大丈夫か後で確認しておこう。それときっちり詫びも入れておかないと。

 反省しながら、まずは亀裂に魔力を流して氷を生成。窓部分も同じように修復する。少し思いついたことがあって、更に氷を操作。亀裂を埋めたまま収縮する事で、ヒビをくっつけられないか試みる。


「うーん……大丈夫、かな? たぶん平気なはず」


 結論から言えば目的は達成された。

 屋敷そのものは普通の建物をベースにしているせいで無理な動きに軋んでたけど、魔力で強引に強度を高めてなんとかする。

 補強が薄れないように気をつけておけばこれ以上破壊が広がることはないだろう。きっと。


 周りが片付いたところで本題だ。穴の大きさを確認して、そりに入った板を取り出す。

 魔人……魔王の眷属と言っても、レンたちは根本的なところでは普通の人間と変わらない。それに魔王は睡眠を必要としないにしても、今日は移動と不意打ちくらいしかしていない僕と違って、勇者たちと戦いながら逃れてきたティスも消耗している。休息くらいは必要だ。

 そんな皆が休んでいる建物の中で、僕の知る工事みたいに騒音を立てるわけにはいかない。そもそも正しい工程とかしらないし。


 というわけで、なるべく静かにいこう。

 まずは氷の刃で穴の周りを四角く切り抜き、形を整える。さっき亀裂を修復した時と同じ要領で板を接着し……そのうえで穴と大きさを合わせ、はめこんで再び接着。

 うん、うまくいった。同じ調子でぶち抜いた壁を一つ一つ修復していく。

 途中で板が足りなくなって調達に走る場面もあったけど、作業は比較的早く終わった。

 魔法のありがたみを実感しつつ……柄的な意味で周囲から浮いている修復壁を隠すために家具や内装を少し調整して更に十分ほど。


 それから外に移動し、セントサグリアにいた時はできなかった日課の訓練を一通り済ませる。

 やっぱり微妙に動きが鈍っていたな。明日やるつもりの事を考えれば、少しでも動けるようにしておいた方が良い。

 勘を取り戻すまでもう少し訓練を続け、それなりに仕上がったところで水浴びだけ済ませて自室に戻る。


 さて、明日の説得。

 方法なら、実は既に一つ考えがある。皆に納得してもらえるかはその時になるまで分からないけど、理屈としては理解させられるはずだ。

 それでも出て行くっていうなら……最悪、力業で結界を閉じてしまえばいい。

 最後の部分だけ聞いたら、我ながら少し病んでるようにも感じるな。僕自身、考えすぎて道を踏み外さないように気を付けないと。


 まあ自戒はそれくらいにしておいて、後は細かいルールを可能な範囲内で詰めておくか。

 当日になってから考えて時間を引き延ばすって手もあるけど、そんなセコい事しても根本的な解決にはならないし。

 毛布に包まり、夜が明けるまでそんな事を考えていた。


 昨日がだいぶ遅かったこともあり、皆はまだ起きてこない。

 朝の訓練を済ませ、小腹がすいたから軽めの朝食をとる。

 僕、料理はあまりできる方じゃないんだけど……やっておくか。

 簡単なスープと炒め物を用意する途中で、この時間なら昼食と一緒に済ませても良いかと思いついて具材を追加。

 なんとか料理が形になった頃、匂いにつられたかティスが姿を現した。


「おはよう」

「おはよう、ご飯できてるよ。シェリルたちほどの味は保証できないけど」

「うーん……じゃあ、お言葉に甘えて。悪いわね」

「こちらこそ。……昨日けっこう無茶したけど、大丈夫だった?」

「私なら平気よ。それに非ならこっちにも結構あるし、気にしないで」


 二人で食べながら話していると、ゴドウィンが顔を見せた。

 レンとレミナ、まだ寝癖の残っているネロ、寝ぼけた様子のシェリルを引っ張ってくるトゥリナ……皆も続々と起きてくる。

 全員が食事を終えるのを見計らって口を開く。


「――それで、昨日の話についてなんだけど。ただ禁止だけしても納得できないだろうし、一つ条件を考えた」

「条件……それをクリアすれば、俺たちがティスに協力する事を認めると?」

「うん。その条件っていうのは皆が実力を証明すること。勇者たちとの戦いに割って入っても生き残れるって言うなら、僕に止める理由はない」


 特に反論が上がらないのを確かめて説明を続ける。

 ルールは単純。皆は結界の端からスタートし、僕の追跡から逃れて反対側の端に辿り着ければいい。ただし皆の心臓にあたる部分にライフ代わりの氷の結晶を貼り付け、一人でもそれを割られたらアウト。ティスへの協力は認めない。

 ……条件が厳しいのは認める。でも、たとえ皆に嫌われることになろうと失うよりはマシだと思うから。


「流石にそれは厳し過ぎねーか?」

「実戦で勇者に同じ事言える?」

「そ、それは……」

「――いや、それでもこの条件は少し不適切だと思う」


 口ごもるシェリルに代わってティスが口を開いた。


「彼らも私に協力してくれるっていうなら、もちろん彼らだけを危険な状況に晒すような真似はしない。仲間の魔王を何人か常に協力させるし、そもそもその時はユウキだって私たちの側にいるのよね?」

「む……」

「あと、私はその氷の結晶は無くてもいいはずよ。これはユウキの……『凍獄の主(クロアゼル)』の眷属が生き残れるかを試すものなんだから」

「………………。分かった。じゃあそっちで相談して要求を決めて。理屈の通ったものなら受け入れよう」


 それから幾つか、条件のすり合わせが行われ……一時間ほど話し合った結果、最終的なルールが決まった。


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