41.魔王領――27
屋敷に戻ると中にいた皆の視線が集中した。
何事か話してたみたいだけど、どうしたんだろう?
ゴドウィンとカミラの方を見ると真っ直ぐな視線が返ってくる。けれど……何を伝えようとしているのかまでは分からない。
とりあえず話を……そんな弛んだ気持ちは、シェリルの一言に吹き飛ばされることになる。
「ユウキ、おかえりー。俺たち、ねーちゃんに協力することにしたから」
「――――」
っ……!
魔王のもとに皆を残して離れるだなんて油断が過ぎたか。
天裂く紅刃を取り巻く状況を考えれば、相手がなりふり構ってこない可能性も十分にあったのに。
洗脳か、脅迫か、催眠か?
咄嗟に視線を走らせる。シェリルの様子を見るに、脅迫という線は考えにくい。
「……俺たちっていうのは、ここにいる皆?」
「ああ」
更に情報を引き出すために一言。
頷く皆を見るに、ここに残ってた面子は残らずそう考えているのは確からしい。
意識ははっきりしているみたいだし、おかしいのは自分からリバルティスに協力しようとしている一点のみ。
それなら……加速した意識の中、最適な行動を組み立てていく。
――人のことを最強だなんだと好き勝手言う割に、舐めた真似してくれるじゃないか。皆を危険に晒すような真似、許されると思ったか。
僕が守るこの領域で……外様風情が調子に乗るなよ?
「ユウキ――」
「すぐ済ませるから。『永蒼の封柩』」
「何を……!?」
「――『蒼槌』」
長い時間を過ごした空間には魔力がよく馴染んだ。
行動疎外と保護を兼ねて皆もろとも空間を凍結させ、その魔法が完成するより早く禍根を屋敷の外へ吹き飛ばす。
外に向かって一直線に穴が開いたけど仕方ない。
それより……防がれた。逃がすものか。
屋敷が凍り付く音を背後に聞きながら後を追って飛び出す。
僕の結界は敵が内側に入ることを想定していない。内側から脱出するのを阻む手段は何一つ無いから、まずはその足を止める必要がある。
「来たれ白き氷界の狩人! その牙を以て遍く光を打ち砕け! 『氷翼狼』っ」
炎翼を出して態勢を整えようとする敵の足元から、2m近い体高を誇る有翼の氷狼が姿を現す。
リバルティスを僕と挟むように動いた氷狼は、放たれた爆炎を爪の一撃で相殺した。
氷狼に外部から流れ込もうとする意識があったが拒絶する。
大陸からの直接的な干渉はだいぶ弱い。僕が支配しているものに関して影響を心配する必要はないな。
地面に手を突き刺し、凍土をリソースに巨氷潰剣……氷の大剣を生み出し駆ける。
氷狼を振り切り上空へ逃れようとするリバルティスに、展開した氷翼を羽ばたかせ肉薄。
「何を吹き込んだかは知らないけど……皆に手出しはさせない!」
「それは誤解っ――」
勢いのままに斬り上げた一撃を炎剣で防ぐリバルティス。そのまま吹き飛ばされようとする彼女に氷鎖を絡め、強引に位置関係を入れ替える。
「誤解? へぇ、それなら言い分を聞こうじゃないか」
「ぐっ……!」
腕力にものを言わせ更に一撃。
墜落するリバルティスへ、反撃も許さず連続して追撃をかける。
「だから! 彼らは自分の意思で――」
「空言を聞くとは言ってない!」
ひときわ力の籠った一撃で、追いついた氷狼の方へリバルティスを吹き飛ばす。
反応するより早く振るわれた一撃が、その身体を地上へ叩き落とした。
氷狼に直接魔力を通すことで強化し、敵の落下地点へ先行。その身を十字架と鎖に組み換えリバルティスを拘束する。
……ひとまず、これで安心か。
念のため周囲の様子を探り……屋敷の凍結が解けていることに気付く。
どういう事だ? いくら皆が強くなってるっていっても、アレをそう簡単に破れるはずが……。
オリクやカミラを筆頭に、もう休んでいたはずの面々までこちらに向かってきている。それはそうか。寝ていていきなり凍結なんて喰らったら状況が気になるのは当然だ。
追いつかれる前に場所を移すか――そう思った時だった。
「待つのじゃ、ユウキ!」
「ちょっ、何してんだよ!」
左右から声が響いた。
しまった、正面に見えていた面子の中に機動力のあるネロやシェリルの姿が無いのはそういう事か!
そして永蒼の封柩が解除された理由も分かった。上の階にいたラミスも巻き込んだせいで王旗の影響を受けたんだろう。
氷壁で隔絶するにもラミスがいるし、少し遅れてレン、レミナ、ゴドウィンにカミラも追いついてきた。
迂闊……いや、取り乱し過ぎて自滅したようなものだ。
「…………」
「だから待つのじゃ、ユウキ!」
強引に十字架ごとリバルティスを連れて離脱しようとした僕を、ラミスの声と魔法が引き留めた。
くっ……拙いな。皆を傷つけずにこの場を離れるのは、かなり厳しそうだ。
ラミスやレン、レミナまでこの短時間に操られているとは考えにくいから、後続が追いつく前に――。
例によって加速した意識でいくつもの行動を取捨選択する僕にラミスが声をかける。
「余は何がどうなっておるのか分からんが、皆話を聞いてほしいと言っておる。落ち着いて耳を貸すのじゃ」
「ラミス……残念だけど、さっき広間にいたゴドウィンたちは操られてる」
「「「誤解だ!」」」
「っ……ほら、このシンクロ加減! 絶対何かされてるって!」
僕がラミスを説得しようとすると、異口同音に抗議の声が上がる。
少したじろいだ僕の前に、どこか呆れた様子のゴドウィンが進み出た。




