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35.魔王領――21

「――!?」


 森の方から噴き上がった巨大な火柱。

 シェリルの魔法じゃない事だけは辛うじて分かったけど……とにかく、放っておける状況じゃないらしい。

 氷翼を羽ばたかせて着地。落下の勢いも利用して雪原を駆けながら翼を爆発させ、その反動で更に加速する。


 行われている戦いは感覚を最大限まで加速させたら止まってくれるほど生易しいものではないらしい。走っている間も、多少ゆっくりながら戦闘の余波が伝わってくる。

 ある程度近づいたところで気配を消し、少しダミーも混ぜて魔力探知を試みる。

 げっ……シェリルと、それにトゥリナの反応まであった。それと、思い出せないけどどこか覚えのある魔力も。

 結界は破れてないみたいだし、いよいよどういう事だ?


 結界がまだ機能してるなら活用しない手はない。

 ひとまず内側に入り、そこから戦場へ近づいていくと……いつでも動けるように待機しているゴドウィンの姿が見えた。


「やぁ、ゴドウィン」

「っ、ユウキ!」


 少し離れたところから声をかけると、驚いたように振り向く。

 その向こうで戦っているのは……シェリルとトゥリナ。それに、ティス(リバルティス)!?

 相手の方に見覚えはないけど、これだけの力を振るう人間となると……武器を見るに槌の勇者シータと鞭の勇者アベルか。外見も密偵たちから得た情報と一致する。


「これ、どういう状況?」

「詳しい事は分かりません。僕たちが異変に気付いたのも一時間ほど前の事で、僕と今戦っている二人、ネロの四人で様子を見に来た時にはもう『天裂く紅刃(リバルティス)』と見知らぬ二人が交戦していました。今はネロが皆に情報を伝えに向かっています」

「分かった、ありがとう」


 見た感じ状況は互角だ。

 火力は勇者たちに分があるけど、その差はそこまで大きくない。立ち回りでなんとかフォローできている。

 槌の勇者は割と滅茶苦茶に暴れてるけど、それを鞭の勇者がうまく補っているせいで決定的な隙がない。

 まぁ、どういう事かというと……横槍を入れるには絶好の状況ってことだ。

 一度結界の外に出て、気配を消しながら勇者たちの背後に回り込む。

 後は少し魔力を集中させて……。「氷棺(アイスコフィン)」っ、と!


「「ッ――!?」」


 勇者たちの周囲の空間が凍りつく。

 碌に抵抗もさせず封じ込めることに成功したわけだけど……相手は勇者、そう簡単に事は収まらない。槌の勇者を封じた氷柱なんて、もう細かな亀裂が入り始めている。

 シェリルたちの前に姿を現しつつ、氷柱の下に追加で魔法陣を描いていく。かなり初歩のもので本来は別の魔法に使うものだけど、記号みたいなものだし効果は期待できるはずだ。イメージとしては剣技を出すのに素手よりは傘でも装備してた方がマシ、みたいな理屈になるか。


「ッのやろ――!」

「そこでもう一発!」


 ギリギリまで魔力を込め、氷柱が砕けると同時に新たな魔法を起動する。差し詰め「永蒼の封柩(アイスエイジ)」ってところか。

 相手が無抵抗なら内部の時間ごと封じ込められる大技だけど……どれだけ効く事やら? 手応えからすると、しばらくの間は保ちそうな感じだ。


 あー……レンやレミナと勇者は、まだ会わせない方が良いかな?

 二人は勇者への復讐が根底にあるから、迂闊に暴走のリスクを負わせるわけにはいかない。

 どう隠すか少し迷った後、氷柩ごと勇者たちは地中に沈めておく。場所だけ覚えといて後で回収に来よう。


「えっと……まずはただいま、かな。シェリル、トゥリナ」

「おかえりなさい……」

「おう、おかえり! 格好良かったぜ!」

「二人はとりあえずゴドウィンと合流して先に戻ってて。僕は先に少しティスと話してから行くよ」

「……大丈夫?」

「多分ね。心配しなくても、これ以上物騒な事にはならないんじゃないかな」

「えー? トゥリナ、久しぶりに会ったんだし俺たちもさ――」

「後でも出来るでしょ。さっきまで非常事態だったんだから、状況はちゃんと確認しておかないと」

「……それじゃ、ティス。場所を移そうか」


 シェリルは少し渋る様子を見せたけど、トゥリナが引っ張っていってくれた。一応ティスに声をかけて、二人が結界に入る瞬間から注意を逸らしておく。

 彼女個人を信用してないわけじゃないけど……やっぱり気になる事が多いし。

 大陸南東の方で暴れていたはずの「天裂く紅刃」が、なんで北部の辺境にあるこの森に勇者を二人も連れてきたのか、とか。

 底知れない気配を出していたあの男は今どこにいるのか、とか。

 これからどう動くとしても、事情を聞かないと判断のしようがない。最悪、荷物をまとめて他所に引っ越さないといけないわけだし。


 歩き出すとティスも静かについてきた。

 結界から適当に離れたところの空き地で足を止め、手頃な樹を切った切り株に腰を下ろす。


「まずは……話があるなら、そっちから聞こうか」

「じゃあお言葉に甘えて尋ねさせてもらうわ。『凍獄の主(クロアゼル)』……いえ、ユウキ。あなたも(、、、、)日本人なの?」

「っ!?」


 こちらからどう話を切り出すか迷った末、相手に話を振ってみる。

 ティスの質問は、予想もしなかったところを突いてきた。


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