28.セントサグリア
上空では特にトラブルに遭遇することもなく、無事に目的地……ディアフィス聖国の王都セントサグリアに到着。
道中でやたら大きい鳥に遭遇したから、サクッと狩って手頃な町で換金。ここらじゃ有名な大物らしくてちょっと騒ぎになったけど、催眠で強引に収集をつけてきたのはさておき。
上空から眺める分には割と発展してる感じで、治安も良さそうだ。なんていうか……まさにファンタジー系のゲームで見るような王都って感じ?
反対側の端まで飛びながら町の中までマップを補完。やっぱりこういう細かいところになると、その辺で仕入れられるような地図はアテにならないな。
僕は王都の北からやってきて、そのあと南に抜けた形になる。
こういうの一々気にするのもセコいかもしれないけど、一応念のために東へ回ってから魔力探知を試してみた。
中心部にある城を覆うように存在した球形の結界が魔力を阻む。まぁ、可能性くらいは予想し――。
ビィィィィィィィイイイイイイイイイイ!!!!
「っ!?」
王都全体に響くような警報が鳴りだす事態までは想定していなかった。警戒の為に感度を上げていた聴覚には結構くるものがある。
咄嗟に意識を最高速まで引き上げる。
さて……これからどうしよう? 引き返すのはいつでも出来るからこの際考えないとして、まだギリギリ警戒が始まっていないこのタイミングで突っ込むか、もう少し計画を練って出直すか。
かなり大々的に警報鳴らされちゃったからなぁ……。
そもそも探知する前にその辺りも考えておけばよかったんだけど、悔やんでも後の祭りだ。仕方ない、情報集めてから決めたかったんだし。
……うん。どう動くにしても、やっぱり情報は欲しい。二日も見張ってれば人の出入りくらいあるだろうし、その人に催眠でもかけて聞き出すとしよう。
誰も出入りしてないようだったら? そんなところにフラっと余所者が来るのはマズい気がするから、それはそれで一つ情報を得られたって事で。
結論から言うと、翌朝の段階で王都を出る旅の商人たち……に扮した隣国の密偵を捕まえることに成功した。
少人数だったから適当に移動したところで急襲して気絶させ、起こした適当な一人を催眠にかけて色々と聞かせてもらう。
彼らは昨日の警報を警戒して脱出してきた主力なんだとか。棚ぼたに近いというかそのものな状況だけど、なんというか……やったぜ! って気分だ。
一応他の奴から情報の裏も取っておくとして……うん。王都内に残ってる部下の情報も貰ったし、何かあったら頼らせてもらおう。
最後に潜入に必要なものだけ貰って密偵たちとは別れる。時間経過なんかも辻褄を合わせて、本人たちには何事もなかったように認識させておいた。
それにしても、催眠かけた複数人を待機状態みたいにして合図で一斉に催眠を解くなんてアイディアは何気に凄いと思う。気づけば普通なんだろうけど、僕には思いつけなかっただろう。
まあ、勇者や彼らが今相手にしてる魔王たちのことを含め、ディアフィスがどんな国でどういう状況にあるかはある程度分かったし?
あとは適当な貴族っぽい奴でも城から出てきたのを捕まえて、サグリフ王朝乗っ取りの顛末を聞けばパーフェクト。よし、これは本当に数日で帰れるかもしれないな。
余裕があれば勇者たちが善悪問わず国の手駒になってる事情についても知りたいところだ。使う側から直接話が聞ければ分かることもあるだろう。十中八九酷い話になるだろうから、そこは覚悟しておくしかないか。
その日の昼過ぎ、僕は密偵から貰った紹介状を手に王都の門をくぐっていた。
「死んだ祖父の伝手でサウゼン工房に弟子入りに来ました」
「よし、通れ」
関所の兵に紹介状を見せ、難なく王都に侵入。
ダシにさせてもらった工房は王都に潜入している密偵の拠点の一つだ。受付のおじさんに紹介状を見せると、奥まった小部屋に通される。
数分も経たずに筋骨たくましい白髪の老人が入って来た。
「……紹介状を」
「はい」
「……ふん。確かに受け取ったぞ。後は指令があるまで待機してろ」
「はい」
老人……サウゼンは紹介状を一瞥すると、路傍の石でも見るような目を向けてきた。
渡したのは密偵たちが使う中でも最下級の紹介状。適当な奴を適当に洗脳した、捨て駒以下の下っ端を寄越すときに使われるものらしい。
怪しまれるようならまた催眠の出番だったけどそんな面倒もなく。むしろ僕の侵入に関する手続きとか代わりにやってくれて後は全部好きにしてて良いとか、まさに至れり尽くせりって奴だ。
マニュアル通りに宿を取る。
今必要以上に歩き回るメリットも無いしな……寝込んでる設定に乗っかって、大人しく窓から王城の方を眺めていることにした。




