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27.魔王領――19

「――そういうわけで、ちょっと偵察に行ってこようと思ってるんだ」

「「……は?」」


 双子(レンとレミナ)の声が重なった。

 これからしようとしている事はそう簡単には終わらない可能性もあるし、何も言わずに出ていくわけにもいかないからな……。

 模擬戦を終えた日の晩、僕は今後の予定を伝えるために二人を呼び出していた。


「いきなり偵察とか言われても困る。どういう事だ?」

「どこから話したもんかな……まぁ、最初からで良いか」


 なんだかんだで隠れ里生活が長くなってるけど、元の目的は皆が無事に独り立ちできるようにする事だ。それも、できれば普通に世間へ溶け込んで色々な人と関わりを持ってほしい。

 皆が強くなってるのも確かだけど、ディアフィス聖国、勇者、魔王……不安要素が多くて、安心して送り出せる状況でもない。


「……だからもう少し情報を集めてくるってこと?」

「それもある。だけど長期的には、ラミスを女王にできたらなって」

「! それって、つまりディアフィスを……」

「うん、サグリフ王朝に戻したい。そうすれば勇者の件にも手が付けやすくなるだろうし、理想を言うなら君らがラミスを支える構図を作れれば色々安心できる」


 実際には国民がどう思うとかも考慮する必要があるし、そう単純に事が進むとは思っていない。

 ただ、その辺を判断するための情報収集も含めて今回調べに行く必要はあると思う。

 何があるか分からないし一人で行くつもりだ。僕側の事情だけじゃなく、留守番になるこっちでも何かあったとき皆そろっている方が心強い。


「随分と……壮大なことを考えているのね」

「そうでもないよ。逆に言えば今挙げた問題さえなんとか出来れば解決だけど、それは君らが強くなってくれたおかげだし」

「それはどーも。でも、偵察って具体的にはどうするつもり? 馬鹿正直に聞いて回るってわけにはいかないわよね」

「そこは魔法でなんとか。催眠にかければ証拠を残さずに欲しい情報が得られるから、時間はかかるだろうけど見通しは立ってる」

「大丈夫なの?」

「一応試してみようか。……レン」

「ん?」


 話が複雑になってから目を回していたレンに声をかける。

 その注意がこちらに向いたところで視線に魔力を込めて、正面から目を合わせる。

 手ごたえというか反発がけっこう強いけど……これは魔法への耐性の高さとか、その辺の関係だろう。むしろ一般の兵士とか貴族が相手ならもっとチョロくなると予想できる。


「そうだな……最近の恥ずかしい出来事とかある?」

「この前の夕飯時、俺の足に引っかかったシェリルがトゥリナにシチューぶちまけてたけど――」


 あー……あの事か。

 どっちかっていうとシェリルのいつものトラブルメーカーっぷりというか。

 そんなこと言うなら極論だけど、あの時トゥリナがカミラと話して注意逸れてさえなかったら避けれたというか。

 ちょっと意外だな。そういうこと気にするのはゴドウィンとか当のトゥリナとか、真面目なメンツだと思ってた。いやレンが真面目じゃないってわけじゃないけど。


「――その時トゥリナを見て、つい良からぬ妄想しちまった事かな」

「「…………」」


 ………………はっ!?

 あ、あー、分かる分かる! 年頃だし仕方ないね!

 割とそういうのから隔絶された環境にいたと思うんだけど、そこはどこでも変わらないものみたいだ。


「ん……ユウキ、一体なにを?」

「「あっ……」」


 混乱しているうちに催眠が解けたらしい。

 一時的に意識を失っていたレンが首を傾げた。

 素早くレミナとアイコンタクトを取って今の出来事は忘れることにする。悪戯半分だったとはいえ普通に嫌われかねないし。


「と、とにかくっ。今みたいな感じで情報は得られるから心配ないよ!」

「おいユウキ、情報って何を――」

「そ、そうね。でも貴族相手なら状況違うかもしれないから気を付けて」

「ああ、由緒ある貴族はラミスと共通の先祖である始祖王の血を引いているとかいう話? やりにくい相手に無理して催眠かけるつもりはないから大丈夫」

「一応確認だけど、頭だけどうにかして片付く問題じゃないってのは分かってるのよね?」

「もちろん事を急いで墓穴を掘るような真似はしないよ。適当に情報が集まったら、その時にはまた一回戻って次の計画を立てる」


 レンへの誤魔化しも兼ねて、一息に詳細を詰めていく。

 ネタが尽きていくにつれ話が脱線していったけど、そこは仕方ない。

 十分ほとぼりが冷めたところで話の内容を簡単にまとめてレンに伝える。


「――それで、期間はどれくらいになりそうなんだ?」

「さあ……状況次第になるけど、早かったら数日で済むかも。遅くても一か月経つ前には帰ろうかな」

「分かった。ラミスには……」

「気に病まれるのは本意じゃないし、具体的なところは隠しておいてほしいかな。表向きにはただフラっと出かけただけとか、漠然と外の情報を集めに行ったとか」

「バレる可能性を考えると、皆にも伏せておいたほうが良いかしらね」

「うーん……そう、だね。話すにしてもゴドウィンとかカミラあたりに絞った方が良いかも」

「分かったわ、考えとく。……こっち(留守番組)に関してはこれくらい?」

「うん。それじゃ明日の朝、書き置きでも残して出発するよ」


 最後に僕が留守にしてる間のことを話して解散。

 翌日こっそりと結界を抜けた僕は背中に氷の翼を展開し、サグリフ大陸の地図を片手に飛び上がった。


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