26.魔王領――18
「――ゆくぞ!」
ラミスが腕を振るうと同時、地面から放たれた土砂の奔流が向かってくる。
圧倒的な質量と攻撃範囲はそれだけで脅威だ。
でも、この手の攻撃は陽動ってのもよくある話。
「甘いねっ」
「蒼槌」……心中で名前を思い浮かべ、手元に冷気を収束させる。
叩き付けた冷気によって凍結した土砂の表層を爆発させると、土砂の陰に隠れていたオリクとゴドウィンが吹き飛ばされるのが見えた。
「くッ……まだまだ!」
「レン、レミナ!」
「任せろ」
「この程度っ」
オリクが弾丸として再利用した土砂はレンの操る闇に魔力を阻害され、僕らに届く前に力を失って墜落。
不安定な空中からゴドウィンが振るった鋼鞭は土砂に含まれていた金属を吸い上げ威力を底上げしていたものの、レミナが双剣で防いだ。
そのまま絡め取られそうになった鞭から纏っていた鋼を分離させることでゴドウィンは得物をキープ。
オリクの魔法を阻止した勢いで迫っていた闇を鞭の一閃で弾き散らした。
――ラミスに素性を話してから、更に数日後。
訓練を経て大規模な魔法もある程度安定してきたタイミングを見計らって、皆でやっている模擬戦に参加していた。
組み合わせは毎回適当に変えながら、魔法の派手な僕とラミスをそれぞれ軸にチームを組んでいる。
もうラミスは全員と、それぞれ三回以上は組んでるかな?
最初は事故に備えて緊張もしてたけど、今のところはそんな場面もない。
これなら……いや、安心した時が一番危ないって言うし。今は目の前に集中しよう。
地面に流れる魔力を感じ、凍らせることで先んじて抑え込む。
形としては相殺になるのかな?
戦場が凪いだ瞬間にラミス側のメンバーが突撃してきた。フィールドの範囲は区切られてるから、僕らも合わせて下がるってわけにはいかない。
やられたな……あっという間に敵味方が入り乱れる混戦状態になる。
感覚を最速にまで引き上げれば相手を選んで狙い撃つのも不可能じゃないけど、もう単発だと避けられそうだ。というかこの前シェリルに試して避けられた。
「皆、頼むのじゃ!」
「来るか!」
次第に現れた脱落者が戦場の外に抜けていく中、ラミスの号令が響いた。
更に脱落者が増えるのも無視して、相手の狙いが一斉に僕へ集中する。
逆にこっちの味方もラミスを狙って駆け出す。
この展開も初めてじゃない。こうなったら後は、僕が持ちこたえている間どれだけラミスが逃げ切るかだ。
前は地面から生やした大量の巨腕で防御の構えを見せるも、トゥリナの水とシェリルの炎のコンボで打ち破られていた。
今回その二人はもう脱落してるけど……?
猛攻を凌ぎながら見ていると、今回ラミスが選んだのはまた新しい策だった。
「今回こそ、そう簡単には捕まらんのじゃ!」
「くっ!?」
ラミスの真下から土拳が突き上がる。
ぐんぐん伸びていく腕を素早く反応したレンとレミナが斬り倒す。
宙に投げ出されたラミスは土腕から足場を伸ばして着地。次は自分から軽やかに宙へ飛び出して追撃を更に躱す。
……なるほど、上手いな。急ごしらえの足場はすぐ崩壊するから相手に利用される事は無い。
そして三次元的な移動は捉えるのも困難。追手も散らばれば誰かが食い下がることは可能だけど、二対一くらいなら仕留められる前に逃げられる。
それでも膨大な魔力にものを言わせた荒業ではあるけど……自分の手札をよく活用できていると言える。
「でも……状況が悪いかな」
「?」
「ああゴメン、向こうの話」
この戦場は範囲を区切られている。
つまり、逃げ続けることはできても逃げ切ることはできない。空間的に。
だから――。
「む? …………あっ」
レンたちは一度、追跡をやめて一か所に集まる。
それを見て首を傾げていたラミスも、彼らが魔力を集中させるのを見て自分の策の穴に気づいてしまったという表情をするが……もう遅い。
十分に魔力を貯めたうえで放たれた大技が迫り、回避も間に合わないと悟ったラミスは周囲の土砂をかき集めて防御。
その隙に接近したレンたちが一気に畳みかけ、今回も決着がついた。
「――また負けたのじゃー!」
「だから前勝ったときみたいにハンデ有りにしようって言ったじゃないですか。勝利条件が大将首ならそれくらいしないと」
「じゃがゴドウィン、そんな勝てるのが当たり前のような戦いに勝っても――」
「接戦だったじゃないですか。全然当たり前じゃないですよ」
「うにゅー……」
「まあ、今回みたいな総力戦も楽しかったけどな!」
「……変則的なルールの方が、好き……かも」
模擬戦が終わった後も、余韻冷めやらぬといった様子の会話が続く。
みんな本当に強くなったな……。
ラミスもまだ粗削りなところは残るけど、実力は確かに身についている。
これなら、また少し留守にしても大丈夫かな?




