24.魔王領――16
「――はぁっ!」
「やるね、また速くなってる……なら、これはどうかな?」
地面から射出された弾丸を凍結させて落とす。
その防御も際限なく続く攻撃に押され始めた。
でも……まだ、全力を出せば十分躱せる。
剥き出しになっていた地面を覆うように氷を生成すると、土塊の弾幕は容易に途切れた。
地属性の魔法の強みはリソースが大地そのものだという事。
海上とか高空みたいなところでもない限り、例え屋内でもその実力をフルに発揮できる。
けれど同時に……こうして地面を塞がれると手詰まりになる。
さて、どう来るかな?
「うぬぬ……」
「突破力のある槍に切り替えてきたか。その調子、あと少――しっ?」
「ふん、掛かったのじゃ!」
「待っ……物理はまだ……ストップ! そういう訓練じゃないからコレ!」
それまで弾丸に回していた魔力を注いだ槍はゆっくりと氷蓋を削っていく。
実戦向きではないけど着実な動きを注視していると、不意に身体が重くなった。
重力――!?
不意を打たれた隙に拳を構えたラミスが飛びかかって来る。
最近は魔力抜きのスポーツテニスもしてたし、その前からレンたちの訓練を見学していただけあって動きは悪くない。
慌てて重い身体を動かし飛び退る。
というかこの重力、動き回っても解除されないのか……意外と実戦向きだな。
割と必死の制止に不満そうな様子ながらも攻撃の手を止めたラミスに、ほっと一息吐いた。
訓練が始まってから十日余り。
ラミスの技術はもうオリクと同じレベルで魔法を操れるところまで来ている。
本当に成長速いな……待てよ、レンたちみたいに急に成長してないだろうな?
「……ユウキ? 余がどうかしたか?」
「いや、なんでもない」
そんな事は無かった。
まあ色々あって余裕が無かったあの時とは違う。
これで気付けてなかったらどれだけ節穴だって話だ。
ちなみに成長が速かったレンたちは老化も速い……なんて事はない。
割と物騒な世界だし、某野菜人たちと同じ原理なんだろうか?
サグリフ生まれだってのに、こっちの世界の事が碌に分からない自分に苦笑。
そうして思考に一区切りついたところで、ラミスがこっちを見ている事に気付いた。
どこか思い詰めたような、迷うような……そんな感じがする。
見られていることに気付いたラミスは、ぎゅっと拳を握ると大きく息を吸い込む。
息と共に吐き出された声は、どういった感情からか小さく揺れていた。
「ユウキ。自分を、『凍獄の主』と名乗ったな?」
「まあ、元がつくけどね」
「では……国を滅ぼし、虐殺の限りを尽くしたという話は…………」
そこで声は途切れた。
逆の立場に立ってみれば、この反応も当然か。
今までサグリフに戻ってから何度となく繰り返した思索が呼び覚まされる。
まさか、こんな唐突に向き合う時が訪れるとは思ってもみなかったけど。
……今の僕は、守矢優輝だ。魔王じゃない。
そう思いたいけれど……ユウキであろうとする事が、かつて魔王の為した所業から逃げることを許さない。
ラミスの望む答えが返せないのは、僕の勝手だろうか。
それでも、黙殺だけは出来なかった。
「…………心当たりは、ある」
「っ……なんで……」
「――怖かったから……かな」
「凍獄の主」は正しく災厄そのもので……無差別に破壊を振り撒く最悪の魔王だった。
伝聞とはいえ目の前に立つ相手がそんな存在だと確かめるのに、この少女がどれだけの恐怖を乗り越えたのか。
卑しくも魔王と呼ばれた身なら、その勇気に応えない道理があるか――なんて。
「座って。少し長くなるから」
二つ椅子を用意して腰かける。
座ったラミスが頷いたのを合図に、僕は話し始めた。




