23.魔王領――15
特訓二日目。
とはいえ昨日はラミスの全力を見た後に休憩も兼ねて切り上げたから、魔法を実際に使おうとするのは今日が初めてだ。
他の皆には事情も説明した上で、念の為に立ち入り禁止にしてある。
「――はい、次は風のイメージで!」
「い、行くのじゃ!」
キュボッ! という、ガスに引火するような音。
直後ラミスの手から純粋な魔力の砲撃が放たれた。
急いで凍らせて無害化する。この作業もだいぶ手馴れてきた。
「うにゅう……」
「じゃあ今度は地属性でも試そうか」
「…………」
「ラミス?」
「余には……魔法の才が、無いのかもしれん」
ラミスは俯いてそう零した。
確かに火、水と続いて三連続で失敗したら自信を無くすのも無理はないかもしれない。
一度失敗するだけでも危険なのを自覚してしまえば尚更か。
だから、わざと驚いた顔を作ってみせる。
一度やる気を取り戻せば、今度はもっと強く心を持てると思うから。
「え、この段階でそんな事言ってるの?」
「……のじゃ?」
「ここのリーダー格の、金髪の双子は分かる?」
「レンとレミナか?」
「そう。二人の魔法は光と闇属性だ。それに、紫髪のお姉さん……カミラは毒属性。そもそも僕だって氷属性だし」
「それがどうしたのじゃ?」
「今言った全員が、火も水も、風の属性も使えない。属性なんて今思いつくだけで数十種類はあるのに、落ち込むのは早いよ」
「う……」
「今はメジャーな属性から試してるけど、使える人の少ない属性なんて特別で良いと思わない? 魔法は気持ちの影響を受けるんだから、前向きにね」
「……分かったのじゃ」
うん、もう大丈夫かな。
顔を上げたラミスの目には力が戻っていた。
それから地属性の魔法についてイメージを固めた後、実際に発動を試みる。
ラミスが伸ばした腕から魔力が放たれ――大地が裂けた。
「おわっ!?」
「のじゃ!?」
咄嗟に飛び退いて地割れを避け、周りの氷を操作して強引に修復する。
まさか、励ました次の瞬間に成功するとは……。
「で、出来た……余にも出来たのじゃ!」
「わわ、分かったから! ストップ、ちょっと落ち着いて!」
大興奮で地割れを連発するラミスに思わず悲鳴を上げる。
余程嬉しかったんだろうし、年相応の一面が見れたのは良いんだけど……いや、これ以上は言うまい。
こうなるのを望んだのは僕なんだし。
辺りが火の海とか水浸しになるよりマシだと思う事にして、僕も事態の収拾に努めた。
「じゃあ、次は規模のコントロール……と言いたいとこだけど」
「のじゃ?」
「それより先に、魔法を使う感覚に慣れた方が良いかもね。今日は疲れるまで、何も考えずに魔法を撃ってみて」
「さっきしていた事と同じではないか」
「はは……」
的確な突っ込みを笑って誤魔化す。
この日の特訓でここら一帯の地面は割れてはくっつけを繰り返して継ぎ接ぎだらけになった。
念の為、夜に接着面を念入りに凍らせておこう。
地割れだけじゃなくて地震とか地面の隆起も出来るようになった辺り、進歩は速い方……なのかな?
地属性なら先達にオリクがいるし、そういう意味じゃ都合が良かったかもしれない。
成果を見るに訓練は今のところ順調と見て良いか。




