22.魔王領――14
とりあえず皆のところに行って話とこれからするラミスとの訓練について説明。
それから適当な場所を見繕って二人で移動する。
屋敷とか皆がよく使う訓練場、テニスコートからは十分に距離を取った。
これからやるのだって戦いじゃなくて訓練だし、特に問題は無いだろう。
林に囲まれた広場の一つで足を止めて振り返る。
「じゃあ始めようか。ひとまず、さっきやったのと同じ感じで魔力を解放してみて」
「わ、分かったのじゃ」
少し緊張した面持ちで頷くと、ラミスは真っ直ぐに片手を伸ばした。
逡巡は一瞬。
その様子とは裏腹に呆気なく、けれど膨大な魔力が迸った。
急いで「氷結」……対象を凍らせる魔法で抑える。
ちなみに魔法に名前をつけると、その名を意識するだけで発声ほどじゃないにせよ使い勝手が向上する。
色々考える作業が少し楽しくなってきた自分が怖い。
レンたちに恥ずかしくないよう、厨二病再発だけは無いようにしないと。
「……!」
「ラミス?」
「だ、大丈夫なのじゃっ」
「えっと……今の魔力って、どれくらい制御できる?」
「う……」
尋ねると、ラミスは言葉を詰まらせそっぽを向いた。
参ったな……ほとんどコントロールできてないって感じか。
最低限、撃ち出す方向くらいは自分で決められているだけ良しとしておこう。
そもそもこんな子供が持つには大きすぎる魔力だし。
「質問を変えるけど。この魔力って生まれつき? 王族って皆こんなにおっかないの?」
「それは違うのじゃ。これほどの力を秘めておるのは正統なサグリフ王くらいのものじゃろう」
「へぇ、そうなんだ」
「この魔力も王旗の力も、ある時……父上が崩御なさった折に継承したものじゃ」
「ってことは、それまでラミスの魔力は普通の人と変わらないくらいだったってこと?」
「そうじゃな。少なくともこんな……、身に余るものでは無かったのじゃ」
「ふむ……」
それくらいの幼い子供なら魔法なんて使う機会は滅多にない。
扱い方も知らないままに莫大な魔力を宿し、同時に得た王旗の力で抑え込んできたってところか。
それで成長に伴って出力の規模が大きくなったのも、例の暴走の原因の一端を担っているのだろう。
ならどうするべきか……普通の子供がそうやって覚えていくように、少しずつ練習していくしかないかな?
あとは拙いながらも僕の知識も合わせると……。
「本格的に特訓を始める前に、ラミスの全力がどれくらいか見ておきたいね」
「い、いくらなんでもいきなりそれは……!」
「真上に撃てば大丈夫。飛行機なんかの心配する必要もないし」
「ひこうき?」
「ああいや、こっちの話。とにかく、何かあってもなんとかするから景気よく頼むよ」
「分かったのじゃ」
そう言うとラミスは肩幅に足を開き、右手を真っ直ぐに掲げた。
添えられた左手にぐっと力が籠る。
放たれたのはさっきと同程度の魔力。
そして、次の瞬間――。
「では……行くのじゃ!」
「っ、『氷結』!」
咄嗟に口に出していた。
ラミスの小さな総身から凄まじいまでの魔力が溢れ出し、抑えきれなかった分は衝撃波となって拡散する。
踏ん張りながら見上げると、ラミスの上空には背筋も凍るほどの魔力が放たれていた。
内側から外へ行く分には干渉しないよう設定していなかったら結界も破られていただろう。
……いや、今の状態でも破られているかもしれない。後で確認しておこう。
今最も厄介なのは、これが魔法ではなく魔力という点だ。
魔法ならある程度は物理現象にも従うし、魔力のままより威力は上がるけど対処もしやすい。
さっき溢れた魔力だって、津波や土石流みたいな魔法だったら抑えきれただろう。
こっち側の常識なら、そこまで。
せいぜい魔法に対する影響が予測しきれないものがある、程度の認識。
でも……異世界の知識があると、少し嫌な可能性も浮かび上がって来る。
魔力の奔流が収まった後、見えてきた光景はその予想を悪い形で裏付けていた。
「こ、これは……!?」
「気にしないで、って言っても無理な話か」
余波を受けて薙ぎ払われた木々。
それ自体はまぁ問題の内には入らない。
拙いのは……奇妙な形に変質していたこと。
その一部は呪いのようなものを漂わせてさえいる。
先ほど抑えた魔力と同様に凍らせてから微塵に砕いて処理する。
魔力ってのは生物と密接に関わる力だ。
家畜や野菜を育てていても分かるけれど、日本で言う栄養素や原子・分子にも勝る影響力を持っている。
そんな力がこれほどの規模で暴走すれば……話に聞く放射能汚染に近い現象が起こる可能性は想定できた。
目の前で林の木々に起きたように。
僕らがそれにどれだけ耐えられるかは分からないけど、さっきラミスの方に向かう魔力のカットを最優先にして正解だった。




