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21.魔王領――13

「ふぅ……ほら、これでも飲んで」

「…………」


 ラミスに鎮静作用のある薬草で淹れたお茶を差し出す。

 日本で飲んでた緑茶と風味が似てるから買ってたけど、本来の用途でも役立ってもらおう。

 ここでは飲用に使ってたから飲み易いはずだ。


「……苦いのじゃ」

「あ、そう? 別のを持ってこようか?」

「いや、構わぬ」


 一口飲んでラミスは小さく顔をしかめた。

 でも僕の提案には首を横に振り、何度かコップを口に運ぶ。

 僕も自分の分のお茶を飲むと、頃合いを見計らって声をかけた。


「えっと……落ち着いた?」

「のじゃ……」


 お茶が効いたらしく、頷いたラミスに先ほどまでの狼狽の色はない。

 ただ自分のした事に責任を感じてか、その声は落ち込んでいた。


「じゃあ、改めて言っておこうか。さっきの爆発では誰も怪我してないし、皆ラミスを心配してる」

「…………」

「その上で、あの時何が起きていたのかを聞きたい。……良いかな?」


 合わせた視線から逃れるように俯くラミス。

 途切れがちな話をまとめると、出来事そのものは単純だった。

 レンたちの訓練を眺めていたラミスはその中に混ざりたくなり、王旗(パンディエラ)の力を弱めて自らの魔力を解放。

 そしてラミスの想定以上に強い魔力が軽く暴走した結果があの状況だということだ。

 自分の力が一つ間違えば取り返しのつかない事態を招いていたことが、ラミスを酷く追い詰めていた。


 聞けば昔……数年前のラミスが同じように魔力を暴走させた時が、皆が普段の訓練で使う魔法と同じくらいの規模だったんだとか。

 数年での成長スピードと、今回暴走した魔力が一部という事実を合わせて考えると、軽視して良い問題じゃない。

 単純な魔力量で考えれば皆の全力に匹敵している。

 片鱗を比べてさえそうなのだから、ラミス自身の全力はまさしく桁外れだ。


 救いはラミス自身がその力を真剣に受け止めていることか。

 あと、僕が魔王(クロアゼル)の力を持っていることだ。

 慎重にやれば制御の練習を手伝うのも可能だろう。

 何かと物騒な世の中だ、ラミスがこれだけの力を持っているなら使いこなせるようになってくれると心強い。


「ラミス。自分の魔力が、怖い?」

「……怖いのじゃ」

「この世界で自分を……自分の大切なものを護るには、力が必要だ。ラミスが王族であろうとするなら尚更、その魔力に頼る時は必ず来る」

「それは…………」

「だからさ、僕が特訓に付き合うよ」

「だ、ダメなのじゃ!」


 反応は劇的だった。

 それまでの様子が嘘のように、ぱっと顔を上げたラミスは必死に否定する。

 綺麗な翡翠色の瞳には自分の抱えた力への不安以上に、誰も傷つけたくないという意思が宿っていた。

 思わず口の端に笑みが浮かぶのを感じる。

 まだ始まってもいない訓練だけど、この優しさと強さがあればきっと上手くいく。

 なぜかそう確信した。


「手厳しいな。僕じゃ頼りない?」

「…………、なのじゃ! 王族の魔力を甘く見るでないっ」

「論より証拠って言うし――これでもまだ、同じことが言えるかな?」

「のじゃっ!?」


 部屋の窓を開け、ラミスを抱えて飛び出す。

 出来れば呪文は使いたくないな……窓枠を蹴った勢いが生きているうちに意識を集中させる。

 背中に生えた巨大な氷翼が、重力に逆らって僕の身体を浮かび上がらせた。


 ラミスが寒くないように簡単な結界で冷気を遮断して、と……。

 羽ばたくたびに高度はみるみる上がり、結界の内側全体を見渡せる高さまで上昇する。

 激変した視界に、ラミスは言葉も出ないようだった。


「…………!」

「ラミスにも見えてるのかな? これが僕らの暮らしてる結界の内側なんだけど……」

「凄いのじゃ……!」

「元々ここは一面の森だったんだ。雪原になってるところは僕が均した」

「!? そのような所業、かの『凍獄の主(クロアゼル)』でも――」

「正解。ラミスが王族の魔力って言うなら、僕は魔王の魔力ってね」

「じゃ、じゃが、『凍獄の主』は討たれたと……」

「それも正解。まあ色々あってね……天国(、、)から帰ってきたんだ」


 ラミスも「凍獄の主」の顛末は知ってるのか。

 それはさておき、これくらいで目的は果たせたかな?

 再び氷翼を羽ばたかせて地上へ戻る。

 シェリルを筆頭に何人かが駆け寄ろうとしていたけど、レンたち真面目組が押し止めているのが遠目に見えた。

 もう少し二人で話す時間はあるか。


「――それで、僕に関しては今の通りなんだけど。僕が特訓に付き合っても良いかな?」

「…………よ……宜しく頼むのじゃ」


 皆がいる方を気にする様子を見せ、逡巡するラミス。

 何か聞きたそうな顔をしていたけれど、最後は強引に尊大な表情を作って頷いた。

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