20.魔王領――12
「――せいっ!」
「うわ――」
日本のものとほとんど同じテニスコート。
シェリルの打球が炎を纏う。
テニヌ……というより、超次元とかいう表現の方が近いか。
今やってるテニスは魔法アリのルールだから、色々とんでもないことに――。
うん、僕の認識はまだ甘かったらしい。
振り抜かれたラケットからはボールを包むように炎の竜が飛び出した。
これってもしかしなくても防げなかったら大惨事だよね?
「――っと!」
「っ、ぐ……!?」
炎竜を纏ったボールは、それまでと比べて速さも重さも段違いだった。
ラケットでボールを受け止めてなお、その突撃は止まらない。
だから……溢れる炎を追いかけるように氷を展開。
全てを呑み込み、打ち砕く。
そっちに気を回してたせいで想定より速く飛んだボールがシェリルへ真っ直ぐ突き進み……彼女が咄嗟に構えたラケットに受け流され、空の彼方に消えていった。
それでも衝撃の一部を受けて吹き飛んだけど、シェリルは即座に体勢を整えて着地。
もうこれくらいじゃ一々心配することも無くなってきたあたり、僕も麻痺してきてるな……。
周りで繰り広げられている光景も中々ヒドい。
トゥリナの津波を伴った打球をオリクが大地を隆起させて受け止めてるところなんて圧巻だ。
そんな状況でもボールはラケットで打ち返す。
最低限のルールだ。
……あと、オリクには試合が終わったらコートの状態を戻すよう釘を刺しておかないと。
「ユウキ、もう一回やろうぜ!」
「もうすぐトゥリナたちの試合が終わりそうだから、同じ相手とするより少し待って組み合わせ変えない?」
「んー、別にそれでも良いけ、ど――ッ!?」
シェリルの言葉の途中で、突如として莫大な魔力が生じた。
場所は訓練場か。
この感じ……まさか、ラミス?
「先に行く!」
感覚のギアをトップまで引き上げ、一言だけ残して全速力で駆け出す。
何が起きたかは分からないけど、これだけの魔力が単純に誰かに放たれるだけでも相当マズい。
全速力……文字通り周りへの配慮とかを二の次にした速力の余波で、通った後の木立が吹き飛ぶのを気にする暇もない。
向こうにはレンにレミナ、それにカミラだっている。
だからって安心するのは迂闊過ぎたか……!
雪煙で視界の悪い現場に到着。
突撃の勢いは地面に勢いよく氷槍を突き立てて殺し、まずは僕自身の魔力を以て乱れた場の魔力を押さえつける。
……うん、みんな無事みたいだ。
それを確認してほっと胸を撫で下ろす。
じゃあ、次は事情を聞かないと……。
邪魔な雪煙を消すと、そこには巨大なクレーターが出来ていた。
その周囲にいた皆の配置からすると、これを作ったのはラミスの魔法か。
「よ……余は……っ!」
「……大丈夫だ、ラミスに悪気が無かったのは皆分かってる」
「そうね。まだ貴女のこともよく分からないまま誘った私たちにも非はあるわ」
「皆無事だったんだし、平気だって!」
「お、おう! なんだったら今からだって続き出来るぜ!?」
当のラミスが一番動揺してる感じか。
皆の方は気遣いができるくらいには大丈夫っぽい。
けど……今はひとまず彼女を落ち着かせるべきか。
ラミスの正面に回り、身を屈めて目線を合わせる。
「……、ユウキ……!」
「今はこれだけ言っておくよ。皆無事だし、寧ろラミスを心配してる」
「…………」
「まあ、先に心を落ち着かせようか。少し移動するよ。レン、レミナ。こっちは任せて良いかな?」
「大丈夫だ、任せろ」
「どうってことないわ」
やることっていってもクレーター埋めるのと、駆けつける他の皆への説明くらいだろうし……確かに、心配する要素は無いな。
それより、ラミスってこんなに強かったのか……。
その辺りもきちんと把握しておくべきだったな。
内心で反省しながら、僕はラミスを抱えて館に戻った。




