19.魔王領――11
夕食の時間、ラミスを呼びに行くついでに何気ない風を装って尋ねてみる。
「ラミス、夕飯の時間だから出ておいで」
「……分かったのじゃ」
「ところで今って大陸歴で何年だっけ?」
「? 998年じゃろう?」
「あー、そっか。ありがと」
ふむ……時間移動の可能性に関しては完全に杞憂だったか。
それが分かればまあ良いか。
ラミスはまだ落ち込んでいたみたいだったけど、いつにもまして豪勢な料理を食べる内に元気を取り戻していった。
皆とも打ち解けつつあるようで、会話も弾んでいる。
そういえば、ここでラミスと良い関係を築いておけば彼女が即位した時に色々と有益なんじゃないだろうか。
皆は実戦経験こそ無いけれど、身びいきを抜きにしたって戦力も技能も一級品だ。
近衛とかその辺のポジションに置いてもらえたら安泰だろう。
……また一つ、動く理由が増えたな。
その日の晩、皆が寝静まった頃。
僕は予め魔力を馴染ませておいた宝玉を持って結界の外縁部を回っていた。
「これで良し、と……」
北に黒曜石、東に蒼玉、南に紅玉、そして西には今金剛石を埋めて魔力を繋いだ。
後は結界の中心、東西と南北の宝石を結ぶ直線の交わるところに黄玉を埋めて……と。
確か五行の対応はこれで良かったはずだ。
目的に合わせて結界内の地形も軽く変えてきた。
ある意味、問題はここから。
やるべき事ははっきりしているし、準備だって済ませた。
気は進まないけど……皆の安全を考えるなら、一度破られた結界をただ掛け直すだけでは不安が残る。
ならば今度は本当に尽くせるだけの力と手段を用いるしかない。
時間だって誰にも悟られない最適なタイミングだ。
改めて腹を括り、僕は口を開いた。
「――北に丘陵、東に流水、南に窪地、西に大道を以て四神を降ろす。五行の理の下に息吹よ巡れ。力を曲げ、空間を歪め、世界すら欺け。『幻層壁』」
詠唱に合わせて魔法を起動。
目論見通り、土地自体が持つ魔力も組み込む形で結界が幾つも起動した。
一つ一つはこれまで使っていたものと変わらない。
部外者の意識を逸らすことで結界とその内側を認識できないようにするものだ。
外から向かってくるものは逸らし受け流す効果もあるし、万が一の事故的な物理干渉にも効果はある。
単純に結界自体を強化しても、意識を逸らし過ぎる結果になれば不自然さを相手に与えて逆効果だ。
だからこうして、結界自体の数を増やした。
ついでに地形も四神相応とかいう風水を抑えたから、全体的に運が向いてくるはずだ。
家畜や野菜の成長なんかにも期待できるかもしれない。
というか、地形を整えた辺りから土地の魔力の流れは明らかに良くなったし。
こんな事なら日本に居た頃からその手の知識ももう少し揃えておけば良かったな。
とにかく、これで目的は十分に果たせた。
結界が機能しているのを確かめて肩の力を抜く。
「うぅ……今の聞かれてたら絶対死ぬ……」
思わず独り言がこぼれた。
この期に及んで中二病再発……しかも詠唱まであるとか前よりも悪化してるような事をする羽目になったのには、もちろん理由がある。
きっかけは日本にいた時読んだマンガの知識で、詠唱によってイメージを補強することで魔法を強化する……みたいな理論があったのを思い出したこと。
夜の訓練の時に試してみると、それは実際に効果を示すことが分かった。
ただ……恥ずかしい。
オリジナルの詠唱とか、そんなセンス本当に自信無いし。
メリットがあるのは確かなんだけど、皆に伝えるかどうか足踏みしているのが現状だ。
……その日の訓練は、普段の数倍の力が籠ったものになった。




