17.魔王領――9
「――それで、そのラミスってのはどんな感じなんだ? 貴族の親玉みたいなって事はやっぱり性格悪そうなのか?」
「さっき少し話した分だと、そうでも無さそうだったぜ。偉そうだったけどな」
「偉そう、かぁ。駄目なんじゃないの?」
「シェリルが言うなら大丈夫じゃない?」
「……碌に話もしていないのに、正確な判断など不可能だろう」
「オリクに賛成。これから話を聞いてからだね――っと。起きたみたいだ。ついて来るなら静かにね」
食堂に集まって皆と話していると、ラミスの部屋に残してきた札から連絡が届いた。
日本の電話と違って精々モールス信号くらいの応用しか出来ないし有効距離も短いけど、それでも便利なのは確かだ。
すぐ部屋に駆け付けて、念の為に扉をロックしていた氷を解く。
中ではラミスが、寝起きの子供にしてはしっかりした様子で待っていた。
「おはよう、ラミス。疲れは取れた?」
「うむ。おはようなのじゃ」
観察する分には自然体。
起きたらすぐ連絡するようにって書き置きに従ったのか、扉をロックしていたことに気付いた様子はない。
「じゃあ、改めて話を聞こうか。ラミスは王朝の王女様、なんだっけ?」
「なのじゃ。父上亡き今、戴冠こそしておらんが実質は女王じゃな。王旗も継いでおる」
王旗……王族の血筋に宿り、正当な主に受け継がれる特殊な能力だったか。
っていうか、今サグリフ王朝ってトップ不在!?
そして明らかに重要人物っぽいのがここに……胃が痛くなりそうだ。
「そ、それなら証拠を見せてほしいんだけど。ラミスの王旗はどんな能力なの?」
「残念じゃが余は未熟ゆえ、使用は固く禁じられておる」
なら、実は王族云々ってのが間違いな可能性も少しは……。
「とはいえそれだけで納得はするまい。特別に余へ魔法を使うことを許すのじゃ」
「え?」
「グズグズするでない、絶対に大丈夫じゃから早うせい」
ふと、全力の魔法をぶつけてみたいなって悪戯心が首をもたげた。
万が一を考えるまでもなく普通に自重する。
どうなるかの説明も無いし、軽い方が良いに決まってるよな……。
小さな氷の礫を生み出し、ラミスの額目掛けて撃ち出す。
氷のサイズもあって、ストレートに通ったとしてもデコピン程度の衝撃で済むだろう。
結果は案の定の無効化。
命中する直前から氷は解けるように宙へ消えていった。
「これは宿る王旗の余波じゃ。余に魔法は効かぬ」
「いや、それ王旗の能力じゃないよね?」
「のじゃ?」
カマをかけてもラミスの反応は至って普通。
少なくとも本人に嘘を言っているつもりは無いと見て良いか。
「――のじゃ!? 貴様、我がサグリフ王朝の血筋を侮辱するか!?」
「ごめん、少し勘違いしてたみたいだ。僕が悪かった」
「ふん……殊勝な態度に免じて、此度だけは見逃してやろう」
「ありがとう。それで本題なんだけど、その王女様がどうしてこんなところに?」
「それを語ると少々長くなるのじゃ――」
ラミスの話したところをまとめると、ほぼ「奇妙な人物」たちの誘導によるものらしい。
最初はメイドの手引きで王宮を出た直後、その王宮が爆発。
そのメイドとは少し同行してから別れ、次は兵士と同行して城下町へ。
兵士に連れられてしばらく歩き、疲労が貯まってきたところである町民に招かれ家へ。
兵士とはそこで別れ、次の日はその町民に連れられ更に移動。
しばらくしてはまた別の町民に同じように世話になり、それまで同行していた町民とは別れて新たな町民と共に出発。
その繰り返しの果てにこの森に迷い込み、いつしかはぐれ、そして結界を抜けたと。
結界は王旗の余波ですり抜けたと考えるのが妥当な筋か。
「――誰も悪い人間ではなかったが、どこか人形みたいで正直不気味だったのじゃ」
「人形……」
「その点、まぁ、その、なんじゃ……お主らに会えたのは、良かった」
「シェリルが聞いたら喜ぶよ。それで……ラミスはこれからどうしたいとか、ある?」
「うむ」
奇妙な人物、ね……。
それを聞いて思い浮かべたのは、ティスと共にいた謎の男。
特に明確な理由はないけれどアイツの事だと勘が主張していた。
そしてもう一つ重要なこと。
これからのラミスの行動の指針を尋ねると、彼女は躊躇いなく首を縦に振った。




