163.セントサグリア――27
「……止めよ」
「ラミス?」
「そのようなものが、王旗であっていいはずがないっ!」
「それガ傲慢ダトいうのダ!」
ラミスが地面に手をかざすと、突き出した無数の岩槍がヴィンターへ殺到する。
ヴィンターはそれを片手で払いのけると、反撃とばかりに汚濁のブレスを吐き出した。
「……させない」
「間に合え……!」
反応して動いたリエナの意図が迎撃にあるのを察し、僕も氷剣を携え飛び出す。
ラミスの触手と交差するように氷剣を振り上げ、凶悪な力の塊をどうにか受け流す事に成功した。
まだ攻略の糸口は掴めない。守勢に回るなら、ある程度固まっていた方がやり易いだろう。
ラミスとリエナを抱え上げ、一度ノエルたちの傍まで移動する。
「アリシア」
「っ……」
「戦える? 駄目なら離れててもいいし……あっちに付くって言うなら仕方ない」
半ば放心状態のアリシアに小声で呼びかけると、その身体がビクリと震えた。
この状況だと気遣うのもこれで限界だ。
少なくとも、敵対するのかしないのか。これだけははっきりさせておく必要がある。
「わ……私は……」
……駄目か。
すぐ返事を期待するのは難しそうだ。
かと言って普段のアリシアならともかく、今の彼女には下手したら背後から刺されかねない。
かといって氷で封じても安全は保障できないし、そもそも剣の勇者を封じ込める事は不可能だ。
強引に引き離しても彼女がその気になれば戻ってくるのは一瞬。
思い切って斬り捨ててしまうか? そんな事が出来るなら端から彼女はここに居ない。
でも、アリシアが動けないのも分かる。
なまじ彼女の事情に踏み入ったせいで、分かってしまう。
なら……仕方ない。
「ノエル。アリシアをお願い」
「……分かった」
拳の勇者のノエルはヴィンターを相手にするにはリスクが高いだろう。
それに、彼女ならアリシアがどう動いても対応できる。
問題は……僕、リエナ、ラミス。この三人で、あの怪物をどう倒すかだ。
どんな方法を取るにせよ、弱らせるには物理攻撃で削るしかない。
思考回路が焼き切れそうなほど加速した感覚の中で勝ち筋を探っていく。
「リエナ、ラミス。少しの間、奴の注意を逸らしてほしい」
「まかせて」
「分かったのじゃ」
ヴィンターがやっているのは本来の王旗の儀式とは逆。大陸の魔力を自分のものとして奪い取っている。
なら、地上は駄目だ。
上空に僕の魔力を集め、一つの形に整えていく。
「……消えろ」
「グッ――!?」
瘴気の雫を滴らせる触手がヴィンターへ叩き込まれる。
氷剣の時とは違い、異形の身体を貫く一撃。
低く呻いたヴィンターはギロリとリエナを睨みつけた。
――その身体が、周囲の地面ごと沈み込む。
「ナ……っ」
「『縛絶槍獄』ッ!!」
流石に不意を打たれたらしいヴィンターに全方位から殺到するのは岩石から成る槍衾。
その半分は振り回された双腕に砕かれたが、残る半分は無防備な背に深々と突き刺さった。
完璧だ。回避の余地は無い。
上空に生成した氷塊を、振り下ろした腕に合わせて叩き落とす!
「終焉の化身よ、縛られし災いを打ち砕け!――『白雷』!!」
流星の如く地に突き立った氷塊が砕け散る衝撃は、ラミスが生み出した窪地の内側に閉じ込められ荒れ狂う。
渾身の攻撃の余波が王都全体を揺るがした。




