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160.セントサグリア――24

 魔力を断つ剣の勇者はその能力上、魔法によって束縛する事が出来ない。

 そして高い身体能力に加え、自身の武器を生成できる勇者を物理的に拘束する事も実質不可能だ。

 だから、アリシアがどう動いても封殺できる者を監視につける事で特別に虜囚として扱う。

 それが、ラミスやコーネリアと相談して得られた結論だった。

 アリシア本人の同意もあって、ノエル、リエナと四人でヴィンターの足跡を追ううちに三年の月日が流れた。


 その間ヴィンターの尻尾を一度も掴めなかったわけじゃない。

 奴隷市場から誘拐事件に至るまで、不自然な人の蒸発を追っていけばヴィンターに辿り着く事は不可能じゃなかった。

 原因は……こう言ってしまえば身も蓋もないが、運なのだろう。

 転移魔法陣にはヴィンター一人を転移させるのが限界だということ、効果を発揮するのに一定の時間を要することが分かっている。

 だから魔法陣が起動する前にヴィンターを抑えられればいいんだけど……その具体的な方策は、未だに立てられていなかった。


 転移魔法陣が起動した後にヴィンターを捕らえるのも難しい。

 相手も手練れである以上一定の実力が無いと人海戦術に意味は無いし、都合の合う魔王や眷属を動員する程度では完全な包囲網は作れない。

 かと言ってこちらの存在を悟られないようにヴィンターを追うのもほぼ不可能だ。

 僕らが実体を消せない以上、扉に何か仕込まれるだけでも手詰まりになり得る。

 バレる前に隠れ家ごと破壊しようとした時も、何重にも用意された結界全てが作動した事で防がれてしまった。

 いずれはヴィンターに迫れる機会も訪れるだろうけど、最後に立ちはだかるアリシアの事も加味しないといけない。

 前途は多難だった。


 そんなヴィンターだけど……ここしばらく、その足取りが掴めないでいる。

 代わって注意を引いたのは、マゼンディーク帝国の動きだ。


 サグリフ王朝の再興が成り勇者の脅威が取り除かれてから、大陸では大きな争いもなく平穏な状態が保たれていた。

 また、ラミスたちの努力が実って大陸上の奴隷制度はほとんどが禁じられた。

 マゼンディークは依然としてこれに反発しているが、代わりに様々な方面からの圧力を受け続ける事になった。

 非合法領域に潜った奴隷市場はティスたちが叩き潰しているし、ヴィンターを追う途中でかち合った僕らが処理した事も多い。

 こうして軍需と奴隷市場の二本柱に大きな打撃を受けたマゼンディークは……強硬に軍備を増強する動きを見せていた。


 ディアフィス聖国のもたらした戦乱の爪痕として、マゼンディークに対し各国の軍事力が勝っているとは言い難い。

 サグリフ王朝を再興する戦いで功を上げたレンたち英雄の存在があっても、勝機はあると踏んだのだろう。

 ……実際は、既にティスたち魔王が暗躍の準備を済ませているんだけど。


「――久しぶり。ラミス」

「うむ……よく来てくれた」


 そして、僕らは戦場ではなく王都(セントサグリア)の方に来ていた。

 今やヴィンターの矛先はサグリフ王朝に向いている。

 軍を派遣し守りが手薄になったセントサグリアは格好の獲物になりかねないからだ。

 既に王都には僕の魔力を張り巡らせ、何かあれば建物とその中にいる人たちは氷で守れるように備えてある。

 それでも……今回ばかりは、ヴィンターに会う事が無ければいいと。

 そう、思っていた。


「だから、敵襲があれば余が迎え撃つ! ユウキは民の保護に専念してくれれば十分じゃ!」

「相手の手の内も分からないのに、ラミスにそんな無茶させるわけにはいかないって」

「この数年、余が執務と外交しかしておらんかったと思うてか? いつまでも守られてばかりではおらんのじゃ!」

「それでも万が一があったら困るから留守番させられてるんじゃないの?」

「うぐっ……!」


 横合いからノエルに指摘されたラミスが口ごもる。

 この三年で見た目は本当に見違えて大人びたラミスだけど……中身はあまり変わってないらしい。

 女王としての責任感からとはいえ、むしろ前より意固地になってるんじゃないか?


「し、しかし、それでは何のための力か――っ!?」

「っ……!」


 なおもラミスが言い募ろうとした時、その言葉が不自然に止まる。

 言葉の通り、彼女がずっと守護してきた王都だ。魔力の乱れには僕以上に敏感なのだろう。


「ユウキ!」

「分かってる!」


 異変の起きた一画の建物を凍らせ、窓から飛び出した僕は現場を目指した。

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