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16.魔王領――8

「――うぅ……」

「?」


 ――見つけた。

 相手は年端もいかないって表現が合いそうな少女。

 着ているのは動きやすそうな着物だけど、詳しくない僕でもなんだか高価に見える。

 腰まで伸びた長髪は深い藍色で、所々に枝毛やほつれがあるにも関わらずどこか気品を感じさせる。

 かなり消耗した、けれどボロボロっていうのとは違う様子。

 もう少し僕がサグリフ大陸の闇に詳しければ、それが貴族の子供をわざと逃がした時のものと酷似しているのに気付けただろう。


 実際に少女を見て連想したのはティスの姿だった。

 あと少し放っておいたらあの時の彼女みたいに行き倒れるんじゃないかな?

 益体も無い思考は置いておくことにして、僕は少女の前に姿を現した。


「やあ」

「のじゃっ!?」

「こんなところで人に会うとは珍しい。君、名前は?」

「いきなり現れるでない、無礼者! 余はサグリフ王朝が王位継承権第一位、ラミス・パンディエラじゃぞ!」


 うわー……厄介事の予感。

 面白い声で驚いたと思ったら、少女――ラミスはとんでもない自己紹介を披露した。

 王族云々はともかく、家柄が良いのは本当だろう。

 確かめないといけない事は……ここに来た手段。それと目的、かな。


「それにしても――ん?」

「あ……」


 質問しようとした言葉はくぅっという音に遮られた。

 そうだった、まずは食事か。

 予想だにしていなかった事態に、僕もまだ動転してるらしいな。


「じゃあ少し失礼して、と」

「や、やめんか! 余の名乗りが耳に入らんかったか!」

「こっちの方が良かったかな?」

「そういう問題ではないのじゃ!」

「まあ、少しの辛抱だから」


 背負おうとするとジタバタされたんで、ラミスが王女だって名乗ったのを思い出してお姫様抱っこに移行。

 体格面でも腕力的にも余裕があるし、走らないならこっちの方が安定するな。

 とりあえず……レンたちの訓練風景は見せないようにしながら屋敷を目指すか。

 僕らの事情を明かすにせよ質問するにせよ、できるだけ警戒心を解いてからの方が良いだろう。


 これ以上身体を冷やさないように冷気を払って、と。

 シェリルたちにどう説明したものか考えつつ、足早に屋敷へ向かった。



「――うむ、美味い! 王宮の料理に勝るとも劣らぬのじゃ!」

「はは、それは良かった!」


 それから数分後、ラミスはシェリルが作った簡単な料理に舌鼓を打っていた。

 その内にカミラ――シェリルと一緒に残っていた料理組の一人に事情を伝える。


「――って感じなんだけど。詳しいことはこれから訊くとして、カミラは今の情報だけ皆に伝えといてくれる?」

「面倒ね……まあ、やっといてあげるわ」

「ところで皆の中に、貴族と、こう……確執、みたいなのがある子は……」

「たぶん大丈夫よ。私たちの町なんて、貴族サマの眼中には無かったし。他に注意が無いならさっさと済ませたいんだけど」

「ありがとう、頼むよ」


 そう言うとカミラは渋々って感じで出ていった。

 彼女は怠けたがりなところがあるけど案外しっかりしてるし、頼んだことはきちんとやってくれる。

 ラミスのことの報告についてはこれで心配ないだろう。

 ちなみに、いかにも妖艶なお姉さんって感じの見た目をしてるけど皆と同じく十代前半。


 さて、僕も情報を聞きださないと……。

 そう思ってラミスの方に視線を向けると、料理を平らげた自称王女は眠たげに眼をこすっていた。

 というか、アレはもう半分以上意識が無いな。

 一応、結界があるのにラミスが入ってこれたってのは大問題だ。

 その原因は一刻も早く突き止める必要があるんだけど……ラミスを無理に起こすのは、どうも気が進まないな。

 思わず溜息が零すと、僕はラミスを抱えてフリースペースになっている部屋の一つへ運んだ。

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