153.エゼルキアナ――4
地下水路の探索を始めてから数日。
奴隷の売買に関わっている連中から得た情報を元にした地図も、次第に完成が近づきつつある。
……その日の探索を終え、地上へ戻った時の事だった。
「ユウキ、ちょっと手を出して頂けます?」
「え? ああ、うん」
ランカに言われた通りにすると、出した手をぎゅっと握られる。
魔力的な違和感が僅かに生じたかと思うとすぐに無くなる。
「ランカ?」
「そのまま東の方角に意識を向けてください。何か感じるものはありますか?」
「えっと……」
よく分からないまま、東の方に意識を集中させる。
何かっていわれると……そっちに向けて、引き合うような感覚が右手に無いでもない。直前まで握られてたから、それで何か錯覚してる可能性もあるけど。
そう伝えると、ランカは少し考え込む様子を見せた。
「……何、してるの」
「一言で纏めてしまえば、探知能力のお裾分けですわ。限定的なものではありますが」
「…………?」
「どういう事? ボクも少し気になるな」
「時間も時間ですし、先に家に戻りましょうか。おそらくそこまで急を要する件でもありませんし」
「? 分かった」
立ち話で済ませるには長くなるって事だろうか。
よく分かってないけれど、この場は一応頷いておく事にした。
そしてランカ宅。
用意された紅茶を飲みつつ、改めて説明を聞く事にした。
「まずユウキに報告する事として、先ほどの取引現場で地上では見た覚えのない顔を見つけましたの。十人近い奴隷を購入していた連中です」
「……三人組の?」
「ええ、彼らですわ。……出来ればユウキさんには、彼らの事を調べて頂きたいのです」
ランカが言うには、その三人組は僕が追っている相手――ヴィンター・スタークの手の者である可能性も高いとの事。
というのも、ランカが観測する限り地上においてヴィンターの手掛かりは見つかっていない。
だからもしこの帝都周辺でヴィンターの手掛かりが見つかるなら、残された可能性は彼らくらいのものっていう単純な理屈なんだけど。
そして彼らがヴィンターと関係無かったとしても、どのみち未把握の奴隷売買関係者としてマークしておく必要がある、と。
「……それで……探知能力を分けた、って?」
「その三人組と彼らが連れていった奴隷たちには、『花びら』をつけてありますの。先ほどユウキにしたのとほとんど同じものですわ」
「それって、向こうにもバレない?」
「心配いりませんわ。相手につけた花びらは宿主の魔力に埋もれて存在を隠しますから、察知できるのは私もしくは対応する花びらをつけられた者だけ。それにユウキの感知能力であの反応ですから、人間が気付ける可能性は現実的なものではないでしょう。……その代わり大まかな方向と距離しか分かりませんが、今回はそれで充分かと」
「なるほど。ところでそれ、用が済んだら取れるの?」
「当然ですわ。まぁ私の意思次第ではずっと付けている事も可能ですが、ユウキなら自力でも排除できるでしょう」
そうかな……その花びらを付けられた場所が正確に把握できないと難しそうな気もするけど。
とはいえ下手に試して今ここで花びらを消しちゃっても二度手間だし、また後ででいいか。
そんな事を考えながら紅茶を一口すすっていると、隣に座っていたノエルが口を開いた。
「ところでさっきの説明だと、反応を感知できるかは本人の能力に依存するって事だよね」
「そうなりますわね」
「じゃあさ、ボクにもお願いしていいかな。これでも感覚は鋭い方なんだ」
「お二人が良いと言うのであれば構いませんわ」
「……ボクも。一応」
ノエルの提案に続いてリエナも名乗りを上げる。
こうして結局、僕を含めて三人とも探知用の花びらを付けてもらう事になった。




