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151.エゼルキアナ――2

「――あ、これ美味しい」

「それは良かったですの」


 ランカの作ってくれた料理は確かに大陸北部やセントサグリアとは様子の違うもので、思ったより繊細な味をしていた。

 全体的にさっぱりとしていて、おかわりしても飽きが来ない。


「あまり空気は良くない街ですが、水の質が良いのは確かですので」

「へぇ、そうなんだ」

「ここエゼルキアナは通称『鉄の帝都』。そして、良い鋼を鍛えるには良い水が必須という事なのだとか」

「ふむふむ」


 ただ同時にランカが言うには、貧民街の方にまで行くと水質は保証できないそうだ。

 きちんとした水道を引く事を怠ったせいで、そちらには寧ろ工場で使われた後の鋼毒に汚染された水が回っているらしい。

 結果として貧民街の人口は他所よりずっと減り、国の負担も少なく済んでいるみたいだけど……嫌な話だ。

 僕が前世で知る程ではないけれど、工場の弊害で汚れた水と空気っていうと公害に片足を突っ込んでいるような印象を受ける。

 確かに僕も帝都に入った時に空気の悪さは感じたけど、これでもランカが滞在するようになってから不定期に吹かせている風でいくらか浄化した状態らしい。


「そういえばディアフィス打倒の時はこっち(帝国)でも軍が動いてたらしいけど、ランカが無事で良かったよ」

「流石に貴方には劣るとはいえ私も魔王の端くれ、その程度は造作もないですわ」


 澄ました表情でそう答えるランカだけど、マゼンディークは大陸でも有数の……それこそ多数の勇者を抱えていたディアフィス聖国を除けばトップクラスの軍事力を誇る国。

 その軍の身動きをほぼ完全に封じるとなると、口で言うほど容易いとは思えなかった。


「そうは言いますが、私は集まっている軍の指揮官辺りを狙って竜巻で吹き飛ばしていたくらいですので。まぁ、その辺りは相性の話ですわね」

「そう考えるとここを任されてたのがランカで良かったよ」


 単に軍の機能を停止させるならランカが言ったように強力な範囲攻撃があればいいし、そこに更に求めるとしてもこちらの存在を明かさず相手に対処されないようにするくらいだ。

 でも、それは目の前の軍を無力化する時の話。

 セントサグリアで決戦していた時の状況だと、密かに軍を動かされてディアフィスへ抜けられるだけでも面倒な事にはなり得た。

 それを防ぐための高い広域感知能力と範囲攻撃を合わせ持つ魔王となると、ランカしか居なかったんだと思う。

 ――まぁ、それはそれとして。


「ところでキミは特に変装とかしてないみたいだけど、誰かにバレてる可能性は無いの?」


 僕が口を開くより少し早く、ノエルがまさに僕も気になっていた事を尋ねた。

 対するランカは何も気にしていないようにあっさり頷く。


「気づきませんでしたの? ここ(帝都)では私のような髪は珍しくありませんの。それなりに溶け込めているので心配は無用ですわ」

「あー……ちょっと、ここ最近は気が散っちゃって」

「何か悩みでもあるの?」

「えっ? い、いや、そういうわけじゃないんだけど……うん。大したことじゃないよ」


 うーん……でもノエルの反応からはそう深刻な様子も感じられないし、本当に些細な事なんだろう。

 僕も周りの人そのものはあまり意識して見る事はないし、帝都に着いてからの記憶を辿っても今一つ実感は湧かない。

 ただリエナはきちんと見ていたらしく、納得したように一人頷いていた。


「それに、そもそも私の顔が割れている可能性が相当低いですの。魔王としての私を判別できる距離まで近づけたのは、身内を除けば勇者くらいのものですので」

「あ、そっか」


 ランカの戦闘は基本的に距離を取って能力で攻撃するというもの。

 勇者以外だと接近もままならないだろうし、万が一距離を詰められたとしても普通の兵ならそこから生き延びる術は無い。

 そうするとはっきり認識できるのは鮮やかな金髪の縦ロールくらいで……さっきのランカの言葉が正しければ、それくらいならこの帝都に紛れるのは容易いだろう。


 そんな事を話しているうちに食事は終わり、そのまま風呂等も手短に済ませる。

 再びテーブルを囲んで座ると、ランカが静かに口火を切った。


「――では、本題に移ると致しましょう」

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