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149.リランク

 ノエルが服を買うついでに宿もとってきてくれたというので、身なりを整えた僕らはリランクという名前らしいその町へ向かう事にした。

 いざ入ってみると、リランクは王都から離れている割には結構大きい。

 おかげでまだ営業していたレストランの一つで少し遅めの夕食を済ませる事が出来た。


「ボクも勝手はよく分からないんだけど、今夜の宿はここでいいかな?」

「うん、大丈夫だと思うよ」


 ノエルに紹介された宿は町の建物の中ではそう大きい方じゃなかったけど、それでも貴族街にあったって違和感ないくらいにはきっちりしている。

 というか元々は適当に野宿でもいいか、くらいに考えていた身からすれば氷じゃない屋根の下で眠れるだけでも上等と言っていいだろう。

 気になる値段も相場を考えれば手頃だし、文句をつける余地はなかった。


「お待たせー。いいお湯だったね」

「……結界にあったお風呂の方が……」

「まぁ、あっちはある意味天然だったからね。でも値段の割に綺麗で、この宿は当たりだったと思うよ」

「そう言ってもらえて良かったよ」


 手早く入浴を済ませて部屋に戻る。

 寒さに耐性のある僕なら水風呂で済ませても不都合はないんだけど、それでも温いお湯に浸かれるのは良いものだ。

 いい感じにほぐれた身体をベッドに投げ出し、ついでに簡単な結界を張って部屋の中の音が外に聞こえないようにする。

 視線を向けるのは風呂に入る時は置いていった小鳥の氷像……と、その前に。


「そういえばノエル。貸した服だけど――」

「あ、洗って返すから! 今はボクが持っとくよ」

「いや、もう所々ダメになってるみたいだから捨てちゃっていいよ。繕うにも強化したのが裏目に出てるみたいだし」

「そ、そっか。……じゃ、こっちで処分しておくよ」


 そう言うと胸の前で上着を掻き合わせるノエル。

 僕らの服を調達した時に自分の分も新しいのを買えばよかったのに……まぁまだちょっと変わったファッションで通じなくもない見た目だし、本人がいいって言うならいいか。うん。

 そっちの話題が片付いたところで、改めて視線を氷像(クリフ)に戻す。


「――さて。クリフ、さっきの事について色々聞きたいんだけど」

「我の知る範囲内ならば、な」

「二回戦って思った事があるんだけど……瘴気を宿した魔王は、他の魔王とは明らかに違う。その差はどこから来てるものなの?」

「さてな。だが、これまでの傾向から推測する事は出来る」

「というと?」

「恐らく、『喜躍する黒死(ペスデトス)』は王旗(パンディエラ)の契約が果たされた余波で生まれたものだ。膨大な歪みを消し去った王旗の力、その一部が制御を失ったのが直接の原因だろう」

「ふーん……え?」

「王旗の力が制御を失って……瘴気に?」


 分かったような分からないような顔で相槌を打っていたノエルが動きを止める。

 僕も同じ思いだ。

 例によって軽く明かされた情報は、とてもじゃないけど聞き流せるものじゃなかった。

 僕の質問に氷像(クリフ)は気安く頷く。


「うむ。本来王旗というのは瘴気を人間でも制御できる形に落とし込んだものであるからな」

「……その言い方だと、王旗より瘴気の方が先にあったって事?」

「いかにも。かつての瘴気を宿す魔王たちは、いずれも短い期間に極めて歪みが大きくなった際に現れた」

「それも勇者みたいな問題?」

「否。主に天災によるものだな」

「……クリフ、前は人間を慈しんでるとか言ってなかったっけ」

「万物には理というものがある。無暗に乱せばより大きな歪みを生む事は避けられぬ。我に出来たのは精々警告を発する程度だな」


 うーん……。

 なんとなくクリフが言おうとする事は分からないでもない。

 力があるからって何でも力尽くで解決できるわけじゃないのは、それこそ身に染みて分かってる事だし。

 それより今何より重要なのは別の事だ。


「話を戻すけど、その理屈だともう瘴気を宿した魔王は当分出てこないって事でいいんだよね?」

「今のままなら、な。彼の女王、或いは勇者たちが力の扱いを誤れば事態は如何様にも転び得る」


 返って来たのは微妙に安心できない答えだった。

 なにせ剣の勇者はまだ敵方にいる。

 もし彼女が暴れてまた瘴気系の魔王が出てきた日には、今回みたいな事がまた繰り返されかねない。


「……だが」

「なに?」

「その者の平穏を望むというなら案ずる事はない。それこそ『凍獄の主(クロアゼル)』や『天裂く紅刃(リバルティス)』という存在の発生も、本来は瘴気として発散されるものだったのだから」


 クリフの話すところによると、瘴気を特殊な形……いわゆる秘宝に変換し、適当な器に宿すという段階を経る事で瘴気系魔王の発生は防げるらしい。

 偶然クロアゼル()という形で現れた魔王を先例に構築された手法なんだとか。

 そして他の勇者より強力とはいえ剣の勇者一人で生じる歪みからなら、僕やティス程の魔王を生み出すには至らないそうだ。

 もしその方法を選ぶならきちんと適合する器を見つけないと魔力の暴走によって瘴気以上の災厄を引き起こすとだけ念を押されたけど、今回みたいにリエナを危険い晒さず済むなら安いものだ。

 話も一段落して当座の悩みの種も無事に解消され、その晩はすっきりと眠りにつくことができた。

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