143.王都近郊――3
「――じゃあ、コーネリアのところの人たちは王都の傍にある森の中で待ってもらってるから」
「うむ。……本当に、行ってしまうのか?」
「……うん。でも、僕の力が必要になればいつでも駆け付けるから」
やっぱり残ると、嘘でもそう言いたい気持ちを抑えてラミスの頭を撫でる。
こうしていると年相応の女の子みたいなラミスだけど、彼女はもう立派な女王だ。
その成長を見てきたからこそはっきり言う事が出来る。
それに、コーネリアを初めとしてたくさんの人たちが支えているんだ。
……もう何も、心配する事は無い。
「……それで、これから……どうするの?」
「一度帝国の方に向かおうと思ってる」
「――ボクも、ついて行っていいかな?」
「「っ!?」」
王都を出てリエナと話していると、不意に割り込んできた声があった。
いつの間にか背後に居たのは、テオやコーネリアの部下たちと一緒に森へ残してきたはずのノエル。
「今の王都にはユウキの眷属の皆に、他の勇者たちだって居る。そうしたら、ボクはもうお役御免ってね。評判もあまり良くなかったし」
「ノエル……」
「そんな顔しないで。確かに全部割り切れたわけじゃないけど……それでも、ディアフィスの勇者だった時に比べたらずっと楽なんだ。だから、ボクはキミに救ってもらったんだと思う」
そう言ってノエルはどこか照れくさそうにはにかむ。
でも……多分、救われたのは僕の方だ。
何が正しいのか分からないまま動いてきたけど、それを今肯定してもらえて。
僕自身もようやく、自分の行動は間違いじゃなかったと。少なくとも一片の正しさはあったんだと言えるようになった気がする。
「だから。今度はボクがユウキの力になりたいんだ。ダメ、かな?」
「ううん。……じゃあ改めて、これからもよろしく」
「ありがとう。……こちらこそ、よろしく」
そこから上目遣い気味に頼まれては、僕に拒否する選択肢なんてあるはずも無かった。
それに、ここまできてノエルを一人で放り出すような事もできなかったし。
……何か言いたそうに横から袖を引っ張っていたリエナには悪いけど。
「それで、帝国に何の用事があるんだい?」
「尋ね人のアテと、後は単純に仲間の手伝いってとこかな」
「?」
剣の勇者が行動を共にしていると思われるヴィンター・スタークは、国際的な指名手配を受けている。
主な国の中で唯一それに賛同していない帝国はヴィンターにとって格好の潜伏先である可能性が高いだろう、というのが目的の一つ。
もう一つは、ディアフィスが滅びた今マゼンディークに生まれた最大の奴隷市場の根絶。
ただ、慎重に行けば普段は中々尻尾を見せない大物を一網打尽に出来る可能性から、今はその準備に徹する事になるけど。
「へー……『嵐招く徒華』はともかく、よく『天裂く紅刃』がそんな合理的な判断に賛成したね。効率なんかのために目の前の人たちを放っておけないーとか言いそうなもんだけど」
「そういえばノエルは昔のティスたちを知ってたんだっけ」
「敵として、だけどね。……成長したって事なのかな」
損得じゃなくて目の前の人を助けたいっていう昔のティスの言葉も、間違っているとは思えない。
けれど、理屈に基づいた判断に従った結果としてより多くの人を助けられるようになるなら、それは成長と呼ぶべきなのだろう。でも……。
そんな事を考えていると、ふと肩に乗せていた氷の小鳥が小さく身じろぎした。
本来はラミスから連絡を受けるための氷像だけど、今はクリフ自身の声で口を開いた。
「――その前にもう一仕事だ」
「どうしたの?」
「魔王が発生した。それも少々厄介な個体がな」
「分かった、場所を教えて」
あれだけ大々的に儀式もやったのに、その直後に魔王が暴れてるようだと格好がつかない。
クリフの言葉に二つ返事で頷きつつ、僕は生成した氷龍の背に飛び乗った。




