140.セントサグリア――22
そうして僕らが色々と情報を得ているうちに、王都の情勢も落ち着いてきたらしい。
ディアフィス派や新王派も駆逐され、王城では各々が新たな役割の元で働き始めていた。
実際にはまだ王都を逃れただけで活動を続けている勢力も残っているけれど、ひとまず王都が完全にサグリア王朝の手に取り戻された。
その事を示すため、今日は大々的なパレードが行われている。
「……凄い……」
「流石ラルスというか、手が込んでるよね」
見物客から少し離れたところに隠れながら、隣に居るリエナの呟きに応える。
国の楽団が勇壮な音楽を奏でる中、ゆっくり進んでいくラミスや勇者たちを乗せているのは神々しい外見の聖獣たち。
これはヘンリーが召喚して操っている幻獣にラルスが幻術を重ねて見栄えを整えたもの。
今回一連の演出を盛り上げるためだけに呼ばれてきたラルスは傍目にも分かるほど気力に満ちていて、無理をしてはいないかと逆に少し心配になってくる。
「――この祭りを来年も、再来年も、その次の年も。民の皆と分かち合えるよう、力を尽くしていく事を約束するのじゃ」
やがて王城前の広場に辿り着いたラミスの演説が終わる。
聞いていた人々の答えは、万雷の拍手と歓声だった。
事前に紛れ込んでいたサクラだけじゃなく、顔を出していた民間人からもそれは発せられている。
……掴みは上々。後はこれをどれだけ維持させられるか、か。
まぁ、ラミスたちなら心配はいらないだろう。
「……そろそろ、かな?」
「うん。もう準備しておこうか」
そしてパレードは次の段階に移行する。
そもそも僕らがラミスの事情に関わる事になった根本のきっかけ……大陸に蓄積した“歪み”を解消する儀式。
王城を取り戻した今、それを正式に執り行う事が可能になったわけだ。
色々話し合い、事前に手を回した結果……儀式の場は王城の隠された一室からこの広場へと移された。
出番に備え、僕らも「氷惑蒼衣」を纏って姿を隠す。
ラミスが腰に佩いていた剣を広場の中央に突き刺す。
確かクリフが話していた内容によれば、これが最も重要な作業らしい。
王旗を解放したラミスの元でどこか歪な魔力が膨れ上がり、そしてあるべき形へと正されていく。
事前に話し合った時は地味で見栄えのしない作業になるなんて言われていたけど、とんでもない。
その魔力は一般人にさえ感じ取れたらしく、人混みの中に不安そうなざわめきが広がっていく。
息の詰まるような時間は唐突に終わりを告げた。
……さて。いよいよ僕の番だ。
それまでとは違う意味で震えそうになる身体を抑え込み、リエナと共にラミスの前へ降り立ってから「氷惑蒼衣」を解除。
「――約定は果たされた。これがその証となる」
「…………」
ラミスがそれまで使っていた剣を差し出す。
それを受け取ったのは、顔を隠していたフードを取り去ったリエナ。
白日の下にさらされたその素顔は、色合いこそ異なれどラミスと同じ造形をしたもの。
その事に気付いた人々が息を呑むのを感じつつ、僕は声を張り上げる。
「ここに契約は成った! 大陸の意思の代行者として、汝らの繁栄を認めよう。――しかし努々忘れるな! 汝らが生きる世界を蔑ろにする事があれば、世界もまた汝らに牙を剥くという事を!」
叱声に合わせ、普通の人にも害にならない程度に加減した冷気と威圧を放ってみせる。
同時に僕の周りで空気が凍て付くような現象が生じる。
……ラルスの仕業か。
つくづく脱帽させられるようなプロ根性だな。
それはともかく、短いながらも心臓に負担のかかる僕の出番はこれで終わりだ。
来年からは適当な誰かが僕とリエナの代役を務めてくれるだろう。
最後の最後にミスをしないよう気を引き締めつつ、ラルスの補助を受けながら再び「氷惑蒼衣」で姿を隠し氷翼を展開。
リエナを抱きかかえ、僕は全速力でその場から飛び立った。




