139.セントサグリア――21
続いて向かった牢に居たのは、怪しい黒装束の連中だった。
ひとまず全員を催眠に掛け、質問はラミスに任せて後ろに下がる。
僕が城に入った時にはもう制圧されてたけど、聞くところによればラミスたちの前に立ち塞がってきた敵の中では一番厄介な連中だったらしい。
彼女の見立てによれば、個々の戦力は眷属の皆にこそ劣るものの下手な騎士を上回るのは確か。
また、不意打ち等の動きも城内にいた兵たちより優れていたのだとか。
多分、いつだったか王城への潜入を考えたときコーネリアに警告されたのは彼らの事だろう。
実際、魔法無しでこの黒装束たちの目を欺くのは難しい……というか無理なのは見ただけで察せられる。
「――汝らに問う。城は余が取り戻した。汝らに今、なお戦おうという意思はあるか?」
「無い」
ラミスの問いに、一段と背の高い男が即答した。
他の黒装束たちも考えは同じらしく、否定的な反応は無い。
それに対し、今度はコーネリアが一歩前に出た。
ラミスに発言の許可を得てから口を開く。
「……貴方たちは、ディアフィスによる政変以前は前王マルク様に忠誠を誓っていたはずです。それが何故、ヒューゴたちなどに与していたのです?」
「我らが仕えるは王に非ず」
「……どういう事でしょうか?」
「我らは代々、この城を守る事を使命としてきた。故に、城の主が替われば我らが守るはその人物である」
「では、今は城の主としてラミス様を認めたと?」
「そうだ」
コーネリアの言葉にリーダー格の男は首肯する。
城に仕える、か……なんとなく御庭番という言葉が脳裏によぎる。
その時、再びラミスが黒装束改め御庭番たちに問いかけた。
「これは個人の考えとして聞きたい。汝らは、ヒューゴを……そして今は余を、どのように思っておる?」
「以前の主には、正直なところ辟易していた。王としての務めを果たすでもなく、横暴な振る舞いが目立ち――」
「っつーか勇者が三人やられるまで玉座にふんぞり返ってただけだし」
「それまで連日の酒池肉林とか、サミーやエイハの教育に悪いと思ってたのよ」
「尻に火がついた後だって、キレて部下に八つ当たりする回数が増えたくらいでさ」
「王以前に人としてダメダメでしたね」
うわ……。
個人の考えとして、っていうのがトリガーになったんだろうか。
それまで質問に答えていたリーダー格以外の、それまで後ろに控えていた面々まで口々に愚痴を零し始める。
その勢いたるや、催眠に掛かってるって前提が無ければ全力で前の主を貶してラミスにすり寄ってると思われても仕方ない程だ。
素でそんな事を言われるくらいヒューゴに人望が無かったとも言えるけど――って!?
本人の意思を引き出し過ぎたせいか、催眠の効果が急速に薄れてきている。
要は僕の魔力で相手を浸蝕すればいいわけだから、咄嗟に冷気の霧を生み出して御庭番たちに催眠を掛け直して、と……。
その横ではラミスも若干慌てた様子で御庭番たちを制している。
「わ、分かった! ヒューゴについての話はもういいのじゃ!」
「「「…………」」」
「それで……余について、何か懸念や要求はあるか?」
「要求は無い。懸念はある」
再び静けさを取り戻した牢。
ラミスの問いに、改めてリーダー格が答えた。
「一つは、新たな主の統治がヒューゴよりなお劣悪なものにならないかというもの。もう一つは、勇者にも勝り得る強大な力の遣い方を誤らないかというものだ」
「それなら心配はない。統治に関しては頼れる臣下に恵まれておるし、力にしても彼ら自身が道に反する形で力を振るう事は有り得ぬ」
「…………」
他者への信頼をそう迷いなく言ってのけるのはラミス自身の資質だろうか。
今の催眠で掛かっている指示は問いへと正直に答える事だから、御庭番がラミスの言葉に直接反応する事はない。
けれどその様子に、どこか納得するような気配が混ざったのが感じ取れた。




