124.セジングル王国郊外――4
今回は三人称視点になります
「――っきなり何なんだテメェらぁあああ!!」
「チッ……」
レオンの怒声と同時、その身を守っていた鎖が一斉に弾け鋼の波濤となって襲い掛かった。
ユウキに先んじて地上に降りた五人はそれぞれ受け流し、或いは身を躱して初撃を凌ぐ。
反撃にランカが放った風刃とアーサーの一矢を鎖で受け止め、レオンは五人の襲撃者に視線を走らせる。
「誰かと思えば裏切り者共に負け犬、触手魔王か! クソ共が雁首並べて何の用だ!?」
「無論、貴方をここで討つのですわ」
「……お前、やっぱり嫌い」
「……覚悟」
紫髪の勇者に応えたのはランカ。
その傍でリエナ、フィリもレオンを睨みつける。
「元より、お前を仲間などと思った事は一度もない」
「はンッ! 奇遇だな、オレもだよ根暗野郎!」
アベルの鞭による一閃を、レオンは鎖を束ねる事で正面から迎え撃つ。
その隙を突いたランカとアーサーの攻撃は闇雲に生み出した鎖を暴れさせる事で凌ごうとする。
「……押し潰せ。『壊雫崩滅』」
「ぐゥぉおおおオオオ!?」
それは最強と称された魔王「凍獄の主」に、それも自らの結界内で相対してなお重いと言わしめた超重の弾丸。
「山河穿つ一滴」の名に恥じない雫の弾幕は多層に聳える鎖の壁を大きく撓ませ、そして突破してみせた。
「ざッけんなよクソが……!」
毒づきながら飛びのいたレオンへと突っ込んでいくリエナ。
その背後で蠢いた鎖はアベルの一撃が破壊し、新たに鎖を生み出して迎え撃とうとしたレオンの肩口にはアーサーの矢が突き立つ。
怯んだレオンはそれでも可能な限りの鎖を振り回すが、満足に力も入っていない抵抗では迫る触手を振り払う事は出来ない。
触手から滲みだす瘴気は鎖を片端から蝕んで遂にレオン自身の身体を貫こうとし――。
「っ……」
そこでリエナは大きく後退した。
次の瞬間、それまで彼女が居た場所に墜落した何かが地を揺るがし砂塵を巻き上げる。
すかさずアーサーが連続して矢を撃ちこむも、何かに阻まれる硬質な音だけが響く。
ランカが風を巻き起こし視界を取り戻すと、そこには憤怒に歪んだ顔で障壁を展開するマチルダの姿があった。
「みんな、大丈夫?」
「このまま押し切る……!」
杖の勇者に続き、ユウキとティスも高度を下げてきた。
その手に濃密な魔力が渦巻き、まだ二人はほとんど動いていないにも関わらず場の空気が一気に張り詰める。
「『灼滅紅剣』」
「『凍絶――』……『凍絶蒼剣』」
詠唱により二人の手に現れた剣の外見は、普段二人が使っているものと変わらない。
違うのは秘めた魔力。
それはそのまま淡い輝きとなって刃の内側が溢れだしている。
「どこまでも人をコケにして……」
「やりたい放題しやがって……」
「「くたばれぇええええええええええッ!!」」
どちらからともなく二人の勇者の声が重なる。
互いの攻撃が相乗効果を生んだか、混ざり合った魔力はこれまでのものを上回る規模の鎖と光球の津波を呼び起こした。
「ユウキ、いける?」
「一人じゃ無理だけど、今なら……」
ティスの問いに頷くユウキ。
二人は押し寄せる圧倒的な質量に真っ向から突っ込んでいく。
「はぁあああああ!!」
「でりゃぁあああッ!」
放たれる二つの斬撃。
紅と蒼、空間に刻まれた対照的な軌跡から発せられた衝撃波は、勇者たちの攻撃を微塵に打ち砕いた。
大技の反動に立ち尽くすレオンとマチルダにアベルが鞭を振るう。
勇者といえど、無防備な状態で同じ勇者による渾身の一撃を受けて無事に済むわけもなく……これまで生み出した破壊が嘘のように、その身体は呆気なく消し飛ぶ。
ここに、ユウキたちとディアフィスの勇者二人の戦闘の勝敗は決した。




