123.セジングル王国郊外――3
「――じゃ、ボクはこの辺で」
「ひとまず別行動ですねー」
セジングルとディアフィスの国境が近づいてきたところで氷龍から離れていくのはセレンとラルス。
予備戦力の二人と別れてから更に進むこと十数分……その様子は離れた高空からでもはっきり確認できた。
鎖を束ねた鋼色の大蛇、そして莫大な魔力を秘めた光球の爆撃。
たった二人の勇者による蹂躙が、森を端から更地に変えていく。
セジングル側の戦力は見当たらないけれど当然か。
あんなのに立ち向かったところで、下手したら認識さえされる事なく微塵に砕かれて終わりだろう。
それこそ、魔王や勇者でもない限りは。
「じゃあ、行こうか」
「……了解」
狙いを定めた僕は氷翼を展開し、フィリを抱えて氷龍から離れる。
他の皆もちゃんと離れたのを確認してから、氷龍に更に魔力を注いで巨大化。
そして――。
「『白雷』っ!」
――一気に叩き落とす!
ありったけの魔力を込めたから完全に不意を打つ事は適わない。
けれど氷龍が変じた白銀の波濤は、たとえ気づかれようと避けられないだけの広範囲を呑み込んだ。
「これで先手は……」
「いや、そう上手くはいかないらしい」
ランカの言葉にアーサーが先んじる。
閃くような手際で彼が放った二矢は、ランカに抱えられた不安定な状態にもかかわらず正確に敵の居た位置へ吸い込まれ……そして弾かれた。
地上のレオンは結界状に編んだ鎖の塊で、空中のマチルダは展開したバリアによってこちらの攻撃を防いでいる。
「つッ……何よ、何だっていうのよいきなり!」
バリアの向こうから金切声が聞こえてくるのは無視。
こんな簡単に倒せるなんて最初から思っちゃいない。
それより今は……!
事前の打ち合わせ通り皆が地上へ降りていく中、僕とティスはそれぞれ武器を手にマチルダとの距離を詰める。
今いる面子で空中でも十分な力を発揮できるのは僕とティス、ランカくらいのもの。
数の利を生かすには、上空にいるマチルダを地上へ叩き落とす必要がある。
「その腑抜けたツラ、アンタは――」
「余計なお世話だ!」
迎撃に放たれた炎弾を氷剣で切り払い、更に距離を詰めて一撃。
杖の上で器用に身を躱したマチルダは、続くティスの斬撃も避けてみせた。
それまで腰かけていた杖を手に、マチルダは宙を蹴って高度を上げようとする。
どうやら杖だけに浮力が働いていたわけじゃないらしい。
「逃がさないっ」
「このアタシを、見下ろすなぁああ!!」
ぶつかり合う炎と雷撃。
マチルダに傾きかけた均衡を、吹雪を上乗せする事でどうにか押し返す。
「チィッ……!」
舌打ちしたマチルダが杖を振るうと、雷撃のベクトルが代わり魔法は横合いへ受け流される。
踏み込んだティスの炎剣を、マチルダは杖で受けた。
両断されるかと思われた杖はしかし怪しげな光を放ち、剣を構成する炎を逆に取り込み始める。
「大人しく落ちろ!」
「がッ!?」
僕が手を出すより早く、ティスは勢いそのままに更に肉薄。
頭突きをしてマチルダがよろめいたところに拳を叩き込み、その身体を容赦なく打ち落とした。




