120.魔王領――73
……結界に帰ってきた後。
少し休憩をとってから、僕らはいつもの会議室に集まっていた。
キロソンに出向いた面子が揃ったのを確認して、まずコーネリアが口を開く。
「ひとまず、お疲れ様でした。わたしの力及ばず会話に引き込んでしまい申し訳ありません。皆様には最上級の感謝を」
「いえ、此方こそああいった場は不慣れなもので大変助かりました」
丁寧に頭を下げるコーネリアにこちらもお辞儀を返す。
彼女が居なければ何を話せばいいかも分からないくらいだったし、そうでなくても普段からコーネリアには協力者の人たちとの折衝なんかで頼り切りだ。
その分の恩を今回少しでも返せていたなら嬉しいと思う。
「えっと……それで、今回の目的は果たせたのでしょうか?」
「はい。おかげさまで……というより向こうの遊びが過ぎて火傷した形になりますが、成果は上々と言ってよいでしょう。言質は期待以上にとれました」
「それなら良かったです」
成果は上々だって事は分かった。
それ以外は何言ってるんだって感じだけど、その辺りは後でこの話が終わってから改めて説明してもらうとしよう。
「――さて。それはさておき、幾つか確認しておきたいことがあります」
「あ、はい」
顔を上げたコーネリアが空気を切り替える。
ああ、これはいつものアレか。
契約とか即興ででっち上げた話が多かったから仕方ないかもしれない。
「まずはクロアゼル殿。サグリフ王朝再興後の眷属の皆さんの処遇について仰っていた事は事実ですか?」
「そういえばコーネリア殿に直接伝えた事は無かった気もしますが……ご存知ありませんでした?」
「はい」
「済みません」
素直に頭を下げる。
確かラミスとかアベル、あと眷属の中でもレミナやゴドウィンには話してたはずだけど……別に広めてほしいとか頼んでたわけでもないし、コーネリアに伝わっていなくてもおかしくはないか。
「いえ、謝ってもらう事ではないのですが……」
「……もしかして、都合の悪い事でもあります?」
「まさか。むしろ此方からすれば願ったり叶ったりの話です」
それを聞いてとりあえず一安心。
アルディス相手にああも断言したからには簡単に取り下げるわけにもいかなかったし、コーネリアも賛成してくれているようで助かった。
「後は――いえ、やめておきましょう。また後ほど伺うとします」
「?」
「これで西部の憂いは無くなりました。残るは三国ですが……」
「それなら適当な魔王か勇者を数人警戒させておけば十分じゃない? そもそも何か起きるとも限らないし、事が起きたって私たちが応援に行くまでの時間くらいは稼げると思う。戦力にしたってこっちに余裕があるわけだし」
「そうですね。私もそう思います。後はガリアル殿のような本当に信用のおける方にも手を回しておいて頂くつもりです」
大雑把な答えだけど、実際今の段階で僕らに出来る備えはそれくらいか。
そして、それでおそらく十分と言えるくらい戦力はこちらに分があるのもティスの言う通りだ。
ティスの言葉に同意したコーネリアが指を一本立てる。
「とはいえ、南のマゼンディーグ帝国は現ディアフィスの実質同盟国。協力者の方々の手も伸ばしにくい相手です」
「偵察に出ましょうか?」
「いいえ。彼の国の動向は皇帝一人に委ねられています……クロアゼル殿でもセントサグリア王城への潜入は困難であったはず。有益な情報が得られるとは限りません」
「面目ないです」
「反省すべきはそこでは――ゴホン。わたしとしては、どなたか一人魔王を派遣し、実際に何らかの動きが発生した場合即座にその情報を伝達できるように備える事を提案します」
えっと……僕らの側には魔王が八人。
勇者を含めれば、ノエルを抜いても更に二人増える。
敵対している勇者たちの撃破とディアフィスの打倒を別々の作戦として分ければ、三国に二人ずつ割いても四人残る。
魔王クラスの戦力が四人に眷属の皆が十七人、後はたぶん協力者とか適当な王朝派の軍。
相手が普通の人間の軍隊なら負ける要素は無い。
うん、いいと思う。
「――では、そのように。具体的な人選については目途が立ち次第報告します。皆さんから他に何かありますか?」
「あ、それなら一つだけ」
「なんでしょう?」
「改めてこの場で確認だけしておきたい。ラミス、コーネリア。二人は奴隷の根絶に協力してくれるんだよね?」
「勿論なのじゃ」
「それが協力の対価なのでしたら、否定する理由はございません」
「うん。それが聞ければ十分かな」
唐突なティスの問いに二人は迷いなく頷く。
ティスの方も二人の答えは信じていたのか、重要さに反してやり取りは軽く終わった。
「……あ。そういえば、アルディス殿たちとの会談の際に出た契約の件ですが。一応具体的な内容をこちらで考えておきます。そちらもまた後程ご確認ください」
「了解」
「分かりました」
「それでは解散にしましょう。お疲れ様でした」
コーネリアの言葉に合わせて席を立つ。
後で話があるとも言っていたし食堂でお茶を飲みながら待っていると、コーネリアは割とすぐに姿を見せた。
「お待たせ。場所を移しましょうか」




