12.リエム――3
もう一回お粥を取りに戻ろうかとも思ったけど、あのスピードを見た後じゃちょっと警戒せざるを得ない。
確か、荷物の中に干し肉があったはず。
これくらいなら結界に戻ってからでも作れるし問題ないか。
「まだお腹減ってるなら、これも」
「ほふぇん、はうふぁう」
「……話は食べ終わってからで良いよ」
「――ふぅ、ごちそうさま」
「お粗末様でした……」
「……ユウキ」
「ゴメン、反省してる」
最初の干し肉に始まり、サンドイッチ、おにぎり、簡易の弁当……サンプル用の一つを残して、お土産用に買い込んだ品々が全滅。
僕なんてこの三分の一で限界なのに、この行き倒れどうなってるの?
最初は空腹みたいだし満足するまで食べさせてあげたいって同情からだった。
途中からはなんか食料が消えていくスピードが面白くなって悪ノリしてたのは否定できない。
ふと我に返った時の、血の気が引くようなやらかした感といったら……。
シェリルは共犯だからいいとして、トゥリナのジト目が痛い。
「さて、人心地ついたところでさっ。アンタ誰? なんで倒れてたの?」
「私は……あー、出来れば先にそっちの事を聞きたいんだけど」
ふむ、訳ありかな?
とりあえず僕らの方から自己紹介。
身分的なものはただの田舎者ってことで通した。
一応、嘘はついてない。
「――それでこの買い物は、すき焼きとか食べれるようにしたかったから」
「スキヤキ? 何だよそれ」
「……?」
「シェリルたちは知らなかった? 鍋みたいな料理だけど美味しいよ」
「へー、そりゃ楽しみだな!」
「こっちの話題で盛り上がるのはそれくらいにしといて、と。僕らは大体こんな感じかな」
「……あ、私か。私は旅人みたいなものかな? 自分で言うのもなんだけど世間慣れしてないとこがあって……おまけに連れとはぐれちゃってさ」
「なら探すの手伝うぜ! ユウキ、いいだろ?」
話の途中だったけど、ふと街の方の様子が気に掛かった。
活気があったのは最初からだったけど、喧噪の質が変わったというか……それも、あまり良くない方向に。
魔力探知も併用すると、嫌な予感もだいぶハッキリしてきた。恐慌の類の臭いがする。
耳に意識を集中させて街の方の会話を拾うと、聞こえたのは貴族がどうとか逃げろとかいう内容。
「ユウキっ!」
「うわ!?」
耳元で聞こえたシェリルの大声に仰け反る。
聴覚でこんな感想もおかしいけど、なんか距離感が狂って酔いそうになった。
それで、行き倒れの連れの話だっけ?
「もちろん手伝うよ。なんか物騒な話も近づいてきてるみたいだし、急いだ方が良い。えーっと……」
「ああ、言ってなかった? 私はティス。物騒な話って?」
「僕も詳しくは分からないけど、たぶん行けば分かる」
「良いの? 悪いわね、何から何まで」
「気にすんなって。アレだ、海苔巻きの……」
「……乗りかかった、舟」
「それ。まあ、そういうことだから」
凄いなトゥリナ。今のシェリルの発言は言い間違いとかいうレベルじゃなかったぞ?
それより今は街の方の状況か。
現状で判断できる分だと、悪徳とか暴君な貴族の襲来を民衆が嘆いてるって風に取れる。
日本に居た時の漫画知識だし、事実とどれだけ齟齬があるかは分からないけど……それなりに世話になった街だし、多少のことなら街の方に味方するのは決まりかな。
上手くいくなら酒場の時みたいにこっそり暗殺して事態が収まる可能性もある。いや殺さないけど。
「あ……荷物は……?」
「それなら平気、何とかするよ」
「……分かった」
「なら心配要らないな!」
「要らないの!?」
「やりようならあるし。それより、少し急ごうか」
「あ、うん」
一応ティスの目もあるし、少し離れてから遠隔で結界でも張るか。
普通に張るより強度は落ちるとはいえ……別に良いや。
出発前に言われたことじゃないけど、ここで一々結界が破られる可能性とか気にしててもキリがないし。
ティスのツッコミを勢いで誤魔化し、僕らは街の方へ急いだ。




