117.キロソン――2
「我々は正当な後継であるラミス様を仰ぎ、サグリフ王朝を取り戻す事を目的としています。そして、その悲願も実現の時が近づいてきました」
「ほぉ、それで? このセジングルにもクーデターに協力してほしいってか?」
面白がるような老人の声。
コーネリアは気にした風もなくエルディラクに視線を移し、言葉を続ける。
「いいえ。今回訪れたのは、そのような用件ではありません」
「……ふむ? 確かにディアフィス聖国から数名の勇者が姿を消したらしいとの風聞はこちらにも届いております。しかし同時に、未だ健在な勇者も複数いるという確かな情報もあります。それでも貴女方には勝算があると?」
「ええ」
「ま、最強と名高い『凍獄の主』に大魔王『天裂く紅刃』率いる魔王と眷属共がいりゃあ十分なのはもう分かってらァな」
「……そこまでご存知でしたら話が早い」
再びヤジのように口を挟んできたエルディラクにも、僕と違ってコーネリアはほとんど動揺も見せずに答えてみせた。
実際に直接アルディスと会った僕はともかく、ティスや眷属についても知ってると来たか。
情報源はどうせクリフなんだろうけど、そんなにペラペラ僕らの事を話すんなら僕らにも同じ調子で情報くれればいいのに。
僕らにそんな饒舌なクリフはちょっと想像しにくいけれど、やっぱり長年の付き合いってのがあると違うんだろうか。
クリフにもプライベートはあるとしてそこで幾らか情報がこんな風に他の魔王に伝わるのは仕方ないにせよ、こうして真面目な話してる時にまでそれが影響してくるのはあまり良くないな。
今度コーネリアと相談して色々話をつけておく必要があるかもしれない。
……というか、微妙に相手二人の足並みが合ってない感じがする。
正確にはエルディラクが割と好き勝手言ってるような。
なんとなくアルディスに同情していると、その魔王が小さく手を上げた。
「貴女方に十分な勝算があるのは把握しました。しかし失礼ながら、一つ懸念事項があります」
「懸念事項……?」
「我々は争いを好みません。無暗に戦禍を広げるディアフィス聖国を打倒できるという話は我々にとっても朗報です……しかし。国が代わろうと、その実態が変わらないのでは意味がない」
「それこそ無用の心配です。もちろん我々にとってもも争いは忌避すべきもの。ディアフィスの所業あってこそ我々は決断に至ったのですから」
「その言葉に嘘は無いのでしょう……しかし、貴女以外の方々はどうでしょうか」
そう言ったアルディスが視線を向けたのは僕とティス。
……確かに、勇者っていう特殊な数名が大陸中に被害を出した後だ。
それと同等の力を持った魔王たちの力を借りてサグリア王朝が再興したとしても、周囲から見ればディアフィスの再来を警戒するのは仕方がない。
おまけにティスには連続テロの実績があるし、僕だって昔やらかしたのは言い逃れの効かない大虐殺。
魔王の中でも筆頭格の二人がこれだけ悪名高いとなるとなおの事だ。
「今の彼らは信用に値します。そして、これからも」
「それを証明する事は出来ますか?」
「我々と協力する事になった際、彼らとは幾つかの契約を結びました。その中には当然、無用な血を流さない事も含まれています」
「彼らはその契約にまだ背いていないと?」
「ええ」
ん? そんな契約したっけ?
いや、契約とか関係なしにそんな物騒な事しようとは思わないけど。
それは多分ティスも同じだろう。基本的には。
思わず傾げそうになった首を意思の力で押し止める。
まぁ、ここはそういう体裁で話を合わせておけばいいか。
契約の内容を全部ハッキリさせろとか言われたら凄く困るけど。
どれだけ意識を加速させても、誤魔化せる時間差のうちにまともな答えを返せる気がしない。
そんな展開になったらコーネリアに任せるとしよう。
そこまで無茶な事は言わないはずだ。
「っつーかよォ、せっかく同席してるんだ。ここは本人の言葉で語って貰おうじゃねーか」
不意にエルディラクが提案する。
……直前の危惧とはまた違う方向から、こっちに話を振ってきたな。




