114.魔王領――71
「――あくまで推測の域を出ませんが。ヴィンターによるものと思われる剣の勇者の召喚、そして少し前までディアフィスが行っていた勇者召喚、そしてその召喚が最近になって途切れた事。勇者召喚の魔法が規格外というなら、少し調べればこの辺りの事情に辿り着けるのではないかと」
「ふむ…………」
「また、仮に剣の勇者と同様の戦力をヴィンターが持っていたなら僕らが剣の勇者と戦っているときに投入してきたはずです。さっきアベルが言っていたように、屋敷を吹き飛ばすのは相手にとっても最終手段でしょうから」
もっとも、他の勇者はたまたま屋敷に居合わせなかっただけって可能性は否定しきれないけど。
それならそれで、その他の勇者たちは召喚されてから今まで何をしていたんだって事になる。
いくら隠したって、その痕跡は例えば未だに公には誰の功績か知られていない「凍獄の主」討伐のように不自然な形で残る。
新王派であるヴィンターとディアフィスの関係を考えれば、この両者が連携して不都合な功績をディアフィス側の勇者に代わってもらうというのも非現実的だろう。
「……まぁ、最悪のパターンでも最良のパターンでも、想定する事ならいくらでも出来ますが。もちろん今回判明した相手の隠し玉が警戒すべきものなのも事実とはいえ、流れは依然こちらに向いているかと」
「……なるほど。クロアゼル殿の見解は理解しました。また後程、協力者の方々にも連絡するとしましょう」
そう言って一つ頷くと、コーネリアは取り出した紙に今回話した内容を手早く纏めていく。
とりあえず報告はこれで全部って事でいいかな?
「で、これからどう動くかは決めてるの?」
「うーん……新王派については今回色々分かったけど、肝心のトップを逃がしちゃったからなぁ」
「ひとまず、得られた情報を元に新王派の連中をいつでも処断できるよう備えておくつもりです。それと並行してヴィンターを捜索。ただ、手掛かりがあるわけでもありませんし重きを置くのは前者になります。そして……」
そこでコーネリアは一度言葉を切った。
普段からはっきりと物を言う彼女が、緊張した面持ちで改めて口を開く。
「準備が整い次第、わたしたちで王都を制圧。ガリアル殿たちに呼応して頂いて、国からディアフィス、そして新王派に与する者たちを駆逐します」
「「「…………!」」」
その言葉に部屋の空気が張り詰める。
……そうか。いよいよその段階が見えてきたか。
コーネリアの言葉が意味するのはディアフィス聖国、そして勇者たちとの全面対決。
これまでのどの戦いより苛烈な、本当の戦争。
うぅ……胃が痛くなりそうだ。
「――ラミス様。今後の方針は、以上のようなものでよろしいでしょうか」
「う、うむ。……汝らには感謝してもし足りぬ。あと少し、余に力を貸してほしいのじゃ」
「勿体無いお言葉です」
ラミスの言葉にコーネリアは丁寧に一礼する。
えっと……こういう時、僕の立場だとどう応えればいいんだろう。
意識を加速させようと、自分の中に正解が無ければどうにもならない。
結局うまい言葉は思いつかず、ラミスの視線にぺこりと軽くお辞儀をして応じる。
……返事はまた後でプライベートな時に伝えるとしよう。
「さて、そろそろ昼食の時間です。この場は解散と致しましょう」
「あ、うん」
「食後少ししたら、協力者の方々と今後の動きについて纏めていきます。ラミス様、クロアゼル殿はお付き合いください」
「分かったのじゃ」
「分かりました」
その会話を最後に場はお開きとなった。
会議室を出ると肩から力が抜けていくのが分かる。
階下に降りると、そこには昼食の配膳を手伝う皆の姿。
はぁ……ずっとこうやって過ごしていけたらどれだけいい事か。
頭を振って益体も無い空想を追いやり、僕も配膳の手伝いに加わった。




