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11.リエム――2

 それにしても……僕が召喚されたときの感じからして予想はしてたけど。

 各地で魔王が復活、ねー……。少なくとも良い予感はしないな。


「この店の紙、全部」

「え……? し、少々お待ちください!」


 店を回って紙という紙を買い占める道すがら、酒場で得た情報を反芻する。

 まあ所詮は噂話ってことも念頭に置いておかないと痛い目を見そうだし、そこは弁えるつもりだ。


 得た情報といえば、大陸中央に君臨するディアフィス聖国とかいう国が勇者を複数(、、)召喚し、その武力を背景に不穏な動きをしていること。

 勇者の数は話によって安定していない。ただ、聞いた中から判断するには僕を殺した勇者は「剣の勇者」で間違いない。

 あと、かつて討伐されたはずの魔王が復活して各地で混乱が起きていること。

 そして、周辺国はこの両勢力を警戒しつつも、野望を持って力を振るう聖国をより危険視していること。

 他にも色々あったけど……まあ、この段階で重要な情報はこれくらいだろう。


 粗方の紙を買占め、やや急ぎ足で家畜を確保しに農場へ向かう。

 町の外れへ向かうため、必然的に人気は少なくなり……。


「う……」


 誰かが倒れているのは、遠くからでも目に入った。

 俯せの姿勢なせいで顔は見えないけれど、背丈はシェリルたちと同じくらい。

 特徴的なのは腰まで伸びた長髪の色、だろうか。

 シェリルの赤とも違う炎のような紅色は、行き倒れとは思えないくらい眩く光を反射していた。

 前に伸ばした細い腕に目立った外傷はない。血の臭いもしないし、そっちは心配ないだろう。

 軽く感知してみると魔力は枯渇寸前。

 幾つか原因は考えられるけど、理由はたぶん……。


「くっ……こんな、ところで……」


 凄く真剣な声に似合わない音がくぅっと控えめに響いた。

 やっぱりお腹空かしてたのか。


「まあ、喋る元気があるなら少しは大丈夫だろうし」

「見捨てるのか?」

「魔王だしね」

「……え、マジで見捨てんのか?」

「先に用事済ませるだけだよ。少し離れるとはいえ何かあれば対応できるようにはしとくし」

「流石は魔王だな……って、元だろ」

「まぁそうなんだけど」


 行き倒れの事もあるし、少し急ぎ気味に農場を回る。


「……何の用だい」

「少し、新しい人生を始めたいと思っていまして。牛農家になる為に必要な機材と牛を一式譲っていただきたい、金ならあります」

「ふん……。この程度の予算じゃ儲けは出ねぇぞ」

「構いません」

「好きにしろ。最低限のモンはくれてやる」

「ありがとうございます」


 大体こんな感じで農場巡りは進んだ。

 想像以上にかかったな……町一つで一度に売れる限界近くまでの獣肉を換金したっていうのに、手元にほとんど残らなかった。

 それで準備できた家畜も最低限のもの。

 農家ってのも甘くないな。

 まあ、あまり多く買っても一度に連れて帰れる量には限りがあるし、妥当なところと思えばそれまでか。


 一通り回ったところで行き倒れの元に戻る。


「う、ぐ……っ」

「ほら、とりあえずお粥。食べれ――」

「!」

「るっ!?」


 器の中で湯気を立てるお粥を差し出した瞬間、行き倒れの手が霞んだ。

 反射的に最大まで引き上げられる反応速度。

 停止した世界の中でなおその手はゆっくりと動き、咄嗟に引っ込めた器がそれまであったところを通過する。

 何、これが食欲の力!? どう考えてもレンたちより数段速いんだけど!?

 ――と、唐突に行き倒れの腕から力が抜けた。


 そうだ、お粥あげるんだっけ。

 器を地面に置いて反応速度を戻す。

 のろのろと伸びた手は器を掴んだ瞬間に加速。

 さっきと同じく信じられない速さで起き上がり、瞬く間に平らげた。

 ちなみにこのお粥は農場を回ってから最高速で酒場に行って拝借してきたもの。一応、器の分も含めた代金を置いてきてる。


 ごちそうさまと空の器に手を合わせた行き倒れから、ぐぅっという音が響いた。

 ……まだ足りないのか。

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