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106.魔王領――66

 投稿ミスすいませんorz

 ――勇者の中では最初に僕らに協力する立場を取った鞭の勇者アベル。

 そもそもの経緯は利害の一致。

 確か……枢機卿の第二席、ヴィンター・スターク……だっけ? そいつへの復讐を果たすため、彼はディアフィスを離れ僕らに協力する事になった。


 それで、改めて現在の状況を振り返ってみる。

 ディアフィスの王都、セントサグリア。

 その警備を強固なものとしていた最大の要因である拳の勇者ノエルも今やこちら側……こっちについてはまだ一時的に捕らえただけではあるけど、何にせよ王都から引き離せている事に違いはない。


 さっきの話の焦点になった催眠もだけど、それによって行動の幅はぐっと広がっている。

 なら……ちょうど、そのヴィンターへの直接的な復讐も現実的なものとなった今。

 これまでの協力への対価としても、その話は僕の方から持ち出すのが筋なんじゃないだろうか。

 少し迷ったけど、その事をコーネリアに話してみる。


「……つまり、その勇者をアンタのお目付け役にするついでに復讐も遂げさせようって事?」

「そんな感じ」

「そういう話なら、確かにあまり焦らすのも危ういし……実力も十分。王都の事情にも詳しい部類ではあるわね」


 彼女はアベルの事情について深くは聞かず、潜入の同行者として関係ある要素だけを確かめるように呟いていく。


「懸念事項は……この期に及んで裏切られるような事は無いでしょうし、勇者サマの方の用件も差し障りなく果たされるとして、よ。その後は、彼が私たちに協力する意味は無くなるわよね」

「それは……確かに。でも、少なくとも僕らが義を違えるような事さえ無ければ敵対はされないんじゃないかな」

「ふぅん……私はそこまであのヒトの事は知らないから、アンタの判断を信じるけど。太っ腹な話よねぇ」


 そう言って呆れたような目でジロリとこちらを睨んでくるコーネリア。

 とはいえ、その辺りは……安易な協力関係に固執して誤魔化すような事をするわけにもいかないし、遅かれ早かれ似たような選択はする事になっていたと思う。


「――じゃあ結局、王都にはアンタとアベルさんの二人で行くって事でいいのね? 他に用事済ませておきたい人とかいないの?」

「そう……だね。僕の把握してる限りじゃ、特にいなかったはずだよ」

「微妙に歯切れの悪い返事なのが気になるわね」

「それはまぁ、さっきまで自分の催眠能力の事も忘れてた僕の事だし」

「…………。しっかりしてよ、まだ若いのに」

「……あー、はい」


 なんだかピクニック行く前日の確認する母親みたいになってるコーネリアに、小学生くらいにしか見えない彼女が実は僕より年上なんだって事を思い出させられてちょっと遠い目になる。

 何なんだろうな、どうして自分はこんな小さい子に年下みたいに扱われてるんだろう……からのそういえば実際に僕の方が年下なんだった、みたいな一人で勝手に振り回されて疲れるような感覚。

 いっそラルス(ラカルスマーグ)あたりに頼んでギャップが埋まるように外見を適当な幻影に差し替えてもらってもいいかもしれない。

 そんな事をついぼんやりと考える。


「それじゃ王都に行ったら実際に当たってほしい貴族と質問を纏めておくから、後で確認しに来てちょうだい」

「了解。それじゃ、僕はアベルの方に話をつけてくるよ」


 そこで話を切り上げ席を立つ。

 アベルが居そうな場所となると……眷属の皆の訓練に巻き込まれてるか、そうでなければ適当な空き部屋に居るんだろうな。

 まずは外から見に行くか。

 そう思って屋敷を出ようとした時、袖を小さく引っ張られるのを感じた。


「…………」


 見ればリエナ(ネシェーリエン)がじっとこちらを見上げている。

 その視線は純粋に僕の事を案じるようで、少し言葉に詰まった。


「……マスター。どこかに行くなら……ボクも……」

「……気持ちはありがたいけど。王都は仮にも敵地のど真ん中、何があるか分からないから」

「………………」

「それに。リエナには、帰ってきた時に迎えてほしいなって」

「…………」


 言えたのは建前だけ。

 さっきのコーネリアとの会話を聞いていれば、理由がそれだけじゃない事も察せられたかもしれない。

 でも……この言葉も本当の気持ちなのに変わりはない。


「……分かった……待ってる」


 スッと顔を背けてしまったリエナの表情は窺い知れない。

 彼女は皆の訓練に混ざってくると言うと、そのまま森の方へ走っていった。


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