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102.魔王領――62

「――それで、ジギナム家の連中は……」

「――奴らは白……いや、白というのも妙な話だが、完全なディアフィス派だ。我々の求める第三勢力ではない」

「――こちらの配下からの報告ではセベルテ家の動向がまだ不穏なままとの事。継続して監視を行う」

「――エルヴェト家はディアフィス派だが、その次男の動きに不審なものが……」


 ……目の前で交わされる会話の内容に、コーネリアに書いてもらった地図を見ながら思考を加速させてどうにかついていく。

 こういうのは言葉が聞き取れても理解するより先に話が進んで置いておかれるのが定番だけど、幸い会話そのものは普通の人間のスピードで行われているおかげでなんとかなっている。


 最初は今までの調査で得られた情報の共有。

 そして話題はどこが第三勢力だったらどう対処するか、その為に今から備えてどう動くかというものに移っていく。


 というか……いや、今はやめておくか。

 僕はまだその辺については素人だし、余計な事を言ってコーネリアに迷惑を掛けるわけにもいかない。


「――では、ひとまず現状で話すべき事はこれくらいか」

「そうですね。次は状況に進展がみられる事を期待しましょう」

「寧ろここまで来たのだ、奴らの尻尾を掴むのもいよいよ時間の問題だろう」


 最後に少し言葉を交わして通話が途切れる。

 役目を終えたクリフも去り、残された雪像は僕が消滅させる。

 ……僕、一度も発言してないな。

 威厳というか立場というか、そのへん大丈夫なんだろうか。


「ふぅ……それでは今の会合の内容を整理していきましょう」

「あまり余を見くびるでない。ちゃんと聞いておればその程度は理解できる」


 一息つくと、コーネリアは改めてラミスの方に向き直る。

 なんというか、もし眼鏡をつけてたらクイッと押し上げてたんだろうなって気配を感じた。

 一方コーネリアの言葉に対し、ラミスはどこか不服そうに口をとがらせる。


「でしたら話が早くて助かります。『凍獄の主(クロアゼル)』殿、貴方も会話(、、)の内容は理解していると考えてよろしいでしょうか」

「は、はい。大丈夫です」

「それでは、裏側の話――今しがたの会合で発言した者たちについて話すと致しましょう」


 そう言ってコーネリアが話し始めたのは、旧サグリア王朝側……僕らの見方側についている人たちの分析だった。

 これまで得られた情報と会合の中での態度を照らし合わせ、信用できそうな人、逆にそうじゃない人や注意が必要な人についての分析をしていく。


 っていうか、信用できない人ってのも割といるけど馴染みのない名前ばっかりだな。

 いつの間に……これが、最初に話をつけた人から二次的、三次的に引き入れたって人たちか。


「そのような顔をなさらないでください、クロアゼル殿。確かに一枚岩としての形こそ崩れてしまいましたが、数と力というそれに値するだけのものも得られたのです。何より、熱意や最終目的の差こそあれど利害は一致しているのですから」


 ……顔に出したつもりは無かったんだけどな。

 まぁ、ディアフィスって大国を相手にするのにこっちも勢力を大きくしないとって理屈は分かる。

 気持ちの方はともかく、理屈としては納得している。


「――以上がわたしの分析となります。もっとも、わたしの言に信を置いて頂けるならば、の話ですが」

「信じよう。それこそコーネリアの言葉にも態度にも矛盾は見られんのじゃ」

「……光栄です」


 そう締め括ったコーネリアにラミスは躊躇いなく頷く。

 上品に一礼した彼女の表情は……信じてもらえて嬉しいってのが半分、本当にコイツ大丈夫なのか? みたいな懸念が半分って感じか。

 とりあえず僕が見る分にはラミスも言ったように筋は通ってるし、なにより特に悪意や計算みたいなものは無さそうだ。

 ……前に催眠に掛けた時も、そういう方向の不安要素は抱えてなかったし。


「えっと、話は一段落したって事でいいでしょうか?」

「そうですね」


 流れに区切りが見えたところでそっと切り出す。

 こう改まった口調で話すのは、最初に旧サグリフ王朝の人たちにアタリをつけてた時以来か。

 明らかに自分より手慣れた相手との腹の探り合いみたいなあの空気を思い出すから辛いんだよな……。

 ラミスの事を考えるコーネリアの意思を尊重する意味で、こういう話の時は我慢するけど。


「さっきの話を聞いてて思ったんですけど、もう第三勢力の候補にあたる家は割り出せつつあるんですよね?」

「ええ。あくまで候補の域を出るものではありませんが」

「……僕が直接確かめてきましょうか?」

「いきなり何を――あっ」


 軽く切り捨てようとしたところで、コーネリアも思い至ったらしい。

 そもそも最初にコーネリアを説得する時も少し利用した、僕の催眠能力の事を。


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