101.魔王領――61
予約投稿の不調により更新時間が不安定になりますm(_ _)m
「――ふぅ。これで最後かな」
「……たぶん」
ラルス主導で出来た新しい屋敷。
その図書室に運び込んだ本棚を降ろし、中身が落ちないように凍らせていたのを解いてリエナと一息つく。
魔王の……というか眷属の皆も含めて一人一人が日本の重機くらいの力はあるにしても、かさばる物を運んでいくのはそれなりに時間が掛かるものだ。
それでも朝始めた作業が昼過ぎに終わったのはサグリフならではの事なんだろうけど……。
「さて、残り一仕事ってとこかな」
「何か……まだ、あった?」
「一応、念のためにね」
そう言いながら、手始めにこの部屋の壁……正確にはその芯を凍らせて補強。
そのまま少し魔力を通して手応えを確かめる。
うん、特に問題は無さそうだ。
一人頷いていると、リエナの袖口から伸びた触手が自然に僕の腕へと巻き付いてきた。
「……ボクも、ついてく」
「じゃあ一緒に行こうか」
そういうわけで、新しい屋敷全体の把握も兼ねて建物を補強していく。
新しい屋敷に好奇心を刺激されているのか、眷属の皆も今日ばかりは訓練を放り出して屋敷を探検して回っている。
大まかな感想としては、全体的な雰囲気で見れば前の屋敷とあまり変わっていない感じか。
余った部屋を流用した倉庫が割とバラバラにあったみたいな不便な要素こそ改善されてるけど、玄関から入って少し進んだところに食堂を兼ねる広間があるとか、そういうところは前と同じだ。
食堂の奥にはキッチン。
食堂から伸びる廊下の片方を進むと眷属の皆の私室があって、反対の廊下には図書室や医務室がある。
前の屋敷みたいに元からあった家を組み合わせて作ったんじゃなく一から作り上げただけあって、廊下がきちんと廊下の形をしているのが少し感慨深い。
ラルスの話すところによると、僕やティス、アベルみたいな魔王・勇者勢の部屋や会議室、客室は二階にあるとの事。
今のところ特に用途の無い屋根裏部屋と地下室は浪漫と遊び心の象徴なんだそうだ。
それを聞かされた時は掃除が大変とかなんとか言ってみたものの、その辺りの感覚は割と理解できるのも事実だったり。
……屋敷の構造については、こんなところか。
そして実際に屋敷を一巡りして思ったのはそのサイズ。
外観からして前より一回りか二回りは大きくなってるのは分かってた事だけど、実際に歩き回ってみるとなおの事それが実感できる。
それ以外にも壁や床の外観とか窓の配置と日の取り込み具合とか、ラルスの技術とセンスを感じる要素はそこら中に転がっている。
なんというか……うん。技術とセンスを感じる。
その辺の知識は無いから、具体的に言おうとしても同じ事を繰り返すだけになるけど。
そんな事を考えつつ各所の補強も終え、なんとなく広間に戻ってくる。
「……これから……どうする?」
「そうだね……ああ、時間もそろそろかな。コーネリアのところに行って今の状況を聞いてくるつもり。リエナはどうする?」
「……一緒に、行く」
「うーん、来てもつまらないかもしれないけど大丈夫?」
「もちろん」
確認するとリエナは一切の迷いなく頷いた。
まぁ、本人がそう言うなら問題ないか。
退屈になったら好きなタイミングで下がっていいとだけ伝え、コーネリアの待つ会議室へ向かう。
「――あら? 『凍獄の主』殿、もういらっしゃったのですか?」
「あ、もうそのモードなんだ」
出迎えたコーネリアの台詞はもう貴族モードになっていた。
その傍では例によってアーサー、そして今はラミスが心なしかぐったりした様子で座っている。
……会議そのものはまだ始まっていないみたいだし、まだプライベートの話し方で大丈夫か。
「ラミス、調子悪そうだけど大丈夫?」
「うむ……精神的に少々辛いだけなのじゃ」
「大変だけど、こればっかりは割り切らないとだからね」
「無論、理解はしておるのじゃが……」
「時にクロアゼル殿。時間には少々早いですが、クリフ殿の準備をお願いしてもよろしいでしょうか」
「了解」
コーネリアの要請に応じて雪像を作成。
ラミスと雑談を交わしたり、僕自身の確認も兼ねてコーネリアに書いてもらった地図の内容をリエナに説明したりして時間を潰す。
そして……。
「――時間になりましたのであちらと会話を繋げます。ラミス様、そしてクロアゼル殿。準備はよろしいですか?」
「うむ」
「大丈夫です」
「それではクリフ殿、お願いします」
「よかろう」
一度だけ雪像が頷くと、魔力のようにもそれ以外の何かにも感じられるものが繋がったのが分かった。
さて、今回はどれだけ話を理解できるか……。
少しの緊張と共に僕は身構え、発せられる言葉に耳を澄ました。




