レイ
「神暦31年には、まだ人間だったよ。交通事故にあってね。相手は飲酒運転ひどいものさ」
レイが、私を見た。ん。何かな?
「気を失う前に、右手がちぎれていたのを覚えている。けれど、病院で気が付いたら元通り。それどころか傷一つ無い。代わりに耐えがたいほどの喉の渇きがあった。その本能のままに、看護師を襲い血を啜った。すると、ヴァンパイアとしての知識を思い出した。思い出したというのはおかしいが、そんな感じだった」
レイが、また私のほうを見る。私の表情を窺うように……
私はどのような表情をしていたのだろうか?自分でもよくわからないが、少なくとも恐怖ではなかった。
レイは、手の中で弄んでいるコーヒーカップに視線を落とすと話を続けた。
「その知識の中に、ヴァンパイアのこともあったよ。人間の体内に、もともとヴァンパイアウイルスというものがあるんだ。不活性なウイルスが、何かの拍子に活性化すると人間は、原種と呼ばれるヴァンパイアになる。確率としては何十億万分の一ぐらいの確立だけどね。僕も原種のヴァンパイアは2人しかしらない。皆、人間にまぎれて生活しているから。だけど、主人クラスのヴァンパイアを増やしているヤツもいることは確かだ」
レイは、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。
「あなたは、なにをしたいの?」
「目的は無い。歳を取らないせいで、一箇所に定住するのも難しいから、日本中旅をしている」
レイは、少し寂しそうな顔をして言った。
「それじゃ、アルセクトって誰?」
「主人クラスのヴァンパイア。この辺の下僕を仕切っているのはヤツだよ。他のヤツや、ハンターに狩られた話は聞かないから、健在だと思う」
「他のヤツ?」
「ああ、やくざと同じで縄張り争いってやつ。自分と下僕の食い扶持は稼がないと干からびてしまう。昨日のヤツも狩場とか言っていただろ。人の集まる所が好都合だな。殺すわけではないからね」
「え、そうなの?」
カウンターの中から秋保さんが言った。
「ヴァンパイアの特殊技能、魅了を使ったりして、記憶操作くらいはするけどね。人を殺すとハンターが大挙してやって来る」
「ヴァンパイアも生活大変なのね」
秋保さん……ヴァンパイアに同情してどうするのよ。しかし、ヴァンパイア同士なら仕方ないけど。もし、ヴァンパイアとやくざが縄張り争いしていたらディープよね。
「という訳で、ヴァンパイアのしのぎも楽じゃないから、主人クラスでも下僕を持たないヤツもいる。僕みたいに、日本中フラフラしているのも珍しいけどな」
そう言いながら、レイがコーヒーのおかわりを注文している。気に入ったのかな?
「ところで、レイさん」
「レイでいいよ」
「それじゃ、レイ。行く所はあるの?」
終わったー。
今回で説明のシーンは終わりです。
やっと物語が進む。




