再会
そんな私を見かねてか、マスターが声を掛けてきた。
「秋穂チャン。そんなに落ち込んでもしょうがないよ。今は、命があったことを喜ぶべきだよ」
「えっ、何で知っているのよ、マスター」
私は、昨日のことを何も話していない。もしかして、エスパー?などと訳がわからないことを考えている私に向かい、マスターが無言でテレビを指差す。テレビでは昨日の事件が放送されていた。
ちょうど、ワイドショーのネタが無い時にぶつかったらしい。普段ならこの手の事柄が放送されることはあまり無い。モンスターやヴァンパイアの犠牲者など毎日のように出ているのだ。それはもう、交通事故なみに。
テレビの中では、コメンテーターが好きかって言っている。
私にとっての救いは、理由はわからないが私の顔写真や本名が公表されていないことだ。
ハンター同士なら他のハンターのスケジュールぐらい簡単に調べることも出来るのだが……
結局、ヴァンパイアは殺されたハンターと組んでいた、新人ハンターのAさん(18)に退治されたことになっている。
「秋穂ちゃんの様子からすると、報道の通りじゃないのだろ。秋保ちゃんの手柄なら、もっと景気良さそうな顔をしてもいいはずだしな」
「マスターには、かなわないわね」
私は、昨日の出来事をぽつり、ぽつりと放し始めた。
話し終わると、マスターは黙ったままコーヒーのお代わりを注いでくれた。私も、何かを言ってもらうために話したわけではないので、気にも留めずにコーヒーに手をつける。
心なしか、マスターに話した事で心が軽くなった気がした。
カラン、と軽い音がして、入口から二十代後半の女性が入ってきた。腰まである黒い髪の毛と白く透き通るような肌、胸の二つのふくらみ、そして、女性の私から見ても文句のつけようが無い美人だ……う、うらやましい……見るたびに敗北感に苛まれるのは、気のせいではないはずだ。
「秋ちゃん、来ていたのね。今、事務所に帰らない方がいいわよ。マスコミがたくさんいるから」
この女性も顔見知りである。名前は、篠原秋保さん。いや、今は石原秋保さんだ。私と同名の素敵なお姉さんである。去年の秋に、マスターと結婚したのだ。
元々は、ここの常連さんだが、去年の夏の初めに「私、マスターと結婚します」と爆弾発言をし、私を含めた常連連中を驚かせ、いつも冷静なマスターをあたふたさせた。
このとき、マスターもプロポーズの返事をまだ聞いておらず、「まさか、みんなの前で返事をもらうとは……」と苦笑していたのを覚えている。
「秋保さん、本当ですか?今から報告書も作らないといけないのに……」
「ここで、作ればいいわよ」
秋保さんは、そう言って微笑んでくれた。
「それじゃ、言葉に甘えて店の隅、お借りします」
秋保さんに言って、モバイルパソコンを広げる。巷では音声入力が主流なのだが、私は昔ながらのキーボード入力を使っている。
なぜなら、音声入力は側から見ていると、ぶつぶつと、ひとり言を言っているようで怖いからである。ファーストフード店や、喫茶店、駅のホームで、ぶつぶつと呟く様は、不気味以外の何者でもない。
さて、やるぞ!と服の袖を捲り上げた時、カランと音がした。思わず入り口を見た私は、指を指して、「あっ!」と声をあげた。昨夜の少年が、そこに立っていたからである。
前回の続きですが、話が進んでないですね、これ(汗)
次回からは、解説が多くなると思います。この話を含めて本編3部構成、番外3部構成を考えているのですが、どの話でも前提になるモノの説明です。




