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少年期 ―ヴァビロンの赤い罪日2―

 一頻りして涙を拭ったターラは、村長の孫であるデヴィを連れて、村の端に位置する村長宅に報告へ向かった。


島国であるヴァビロンは今のところ外敵の侵入を許したことがない軍事国家だ。


文明の進んだ碧双界からやってきた祖先が数多くの武器製造・造船技術の伝本を後世に伝えたため、周辺諸国が警戒し、無闇に進攻してくることがなかったのだ。

しかし、平和から生まれた怠惰は、緊急時の備えがまったくできていない現状も作り上げていた。


父親が「逃げろ」と言ったということは、この村に危険が近づいていること、そして、それに対処できないことを予想したということだ。


・・・村を離れて逃げる・・・・か。


レザラは荷造りの手を休めることなく、ぼんやり考えた。


生まれ育った村を突然逃げるように去らなければならず、自分を慕ってくれているデヴィとも、村に置き去りにするようにして別れなければならない。


せめてデヴィだけでもつれていきたいが、両親を早くに亡くし、村長の後継者とされているために、それもできない。


早々に荷造りも済んでしまい、ラピンの背に麻袋を固定すると、母親の元へ行こうと決めた。

特に理由もなかったが、家に一人でいられる気分ではなかった。


村長の家からそのまま出立できるように、母親の荷物も用意する。


外に出る前に、最近発明されたという魔葬銃(まそうじゅう)の弾倉に摩弾を詰めて、背に背負う。


長い筒状の武器で、赤と金で装飾されたシルエットは子供のレザラでも魅力的な見目をしている。


対摩鬼用の武器として開発された威力の高い遠距離専用の武器だ。


使ったことがあるのは、狩りに父親と行った時の一度きりだが、マーヴを使うことができないレザラにとっては心強い。


触れた瞬間に夕霧がレザラの脛にあたる。

魔葬銃に反発するように、自分の意思でレザラを小突いたように感じたのは気のせいだろうか。


 深く考えず、宥めるように夕霧をなでると、急いでラピンに乗って丘陵を駆けた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 蛇行する坂を半分ほど下ったところで、大きく手を振って坂を上るデヴィと鉢合わせた。


息が乱れ、未だ酷い泣き顔をしている。レザラに会いに村長宅から抜け出してきたのは、容易に想像がついた。


「レザラ兄は、本当に村から出ていくの?」


「・・・あぁ」


「いつ?」


「・・・もう少ししたら・・・じゃないかな」


デヴィの蒼い目から大粒の涙が零れていたが、必死に袖で涙を拭って「そっか」と頷いた。


幼いデヴィは臆病で泣き虫だが、人を困らせることを極端に嫌う子供だった。


それが優しさからくるのか、怒られたくないからなのかわからないが、レザラはデヴィが泣き止んだことに、安堵したのは確かだった。


「乗れよ。一緒に村長のところに戻ろう」


深淵の炎を宿したようなレザラの赤目は、瞳孔が開き、顔が緊張で固まっている。

レザラは普段から勘がよい。

どうしようもないほどの嫌な予感が、わき腹を刺激するようだった。


しかし、デヴィを見ると、泣き言も言えない。


デヴィが騎乗したのを確認して、頬が赤くなるほど手で打つと、鐙でラピンの腹を蹴った。


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